5月19日より文科省が実施した、<「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』>(以下「給付金」)は、留学生に限って成績や出席率の要件を課しました。これは明らかな外国人差別に他なりません。
これに対して京都大学は6月2日、京大においては留学生についても成績にかかわらず申請可能とすると発表しました。『朝日新聞』の報道によれば、山極寿一・京大総長は「(給付金は)生活困窮者への支援だ。成績を重んじる奨学金とは目的が違う」「留学生も、経済事情が逼迫している人に支給するのが本筋」と述べて、給付金の留学生要件を批判したとのことです(参考:6月14日付『朝日新聞』「京大総長、学生給付金を批判『留学生差別、おかしい』」)。
給付金が生活困窮者への支援策であり、国籍や成績により差別されるべきでないという点はそのとおりです。しかし実際の京大の給付金運用においては、以下に述べる2点から、山極総長のこうした主張が反映されていたとは言い難いと考えます。
① 留学生(非日本語話者)への対応が不十分であったこと。
京都大学は上記のように、留学生も成績・出席率にかかわらず申請可能とすると発表しました。しかし実際には、京大ウェブサイトからダウンロードできる提出書類様式は、変わらず留学生に対して成績・出席率の条件を満たしているか申告するよう求めていました。成績に関する情報を審査に用いる可能性も否定されていません。
また英語版ページでは様式がダウンロードできない、奨学掛窓口では日本語での対応しかされない、などの問題も多発しました。わずか一週間あまりという申請期間において、事実上高度な日本語読解能力が要件となっていたと言わざるを得ません。
② 学部・院の正課に属さない、研究生、聴講生、科目等履修生などの学生(大学当局が「『非正規』生」として呼称している学生)が給付対象から除外されたこと。
京都大学は近年、「正規」生と「非正規」生との福利厚生面での差別化をより強める姿勢を取っています(※1)が、「非正規」生であれ、学部生・院生と同様に、授業料や入学金(それも学部生・院生と異なり決して免除されることがない)の負担に苦しみ、新型コロナウイルス感染症による影響で経済的に逼迫し、大学での学びの継続が困難になっています。こうした人に対して福利厚生の門戸を閉ざすのは学籍種別による差別であり、困窮した学生の切り捨てに他なりません。現大学執行部は「費用負担の違い」を差別化の根拠としています(※2)が、大学とは営利企業と異なり万人の学ぶ権利を保証すべき公的機関です。大学で学ぶために必要な福利厚生は困窮する人があまねくアクセスできるべきであり、支払う金額により待遇を変えることは、経済力による差別でもあり不当です。
加えて「非正規」生の差別とは、実質的な留学生に対する差別でもあります。なぜなら留学生は、日本人学生に比べ、研究生など学部生・院生以外の学籍で在学する機会が圧倒的に多いからです(※3)。
以上の理由から、山極総長の言うように「留学生を差別しない」「生活困窮学生への支援」としての給付金事業において、学部生・院生以外の学生を排除してはならないと考えます。
京都大学は5月20日に、感染症による困窮への支援策として学生に一人12万円の給付を行うことを発表しています。吉田寮自治会は、今回の文科省による給付金の問題点を踏まえ、京都大学の一学生自治団体として以下要求します。
(要求)
今後新型コロナウイルス感染症対策として京都大学が独自に実施する経済支援について、
- 全学生を給付対象とし、学部生・院生以外の学生を対象から排除しないこと。
- 国籍や学籍種別、学業成績による差別的要件を設けないこと。
- 非日本語話者への対応を充実すること。
- 十分に余裕をもった申請期間を設けること。
※1 授業料免除が学部・院の正課に属する学生のみを対象としていること等が代表的である。直近では、大学当局が吉田寮生に対して立ち退きを一方的に通告した際に、退去期限や代替宿舎の斡旋について、いわゆる「正規」「非正規」の別や在学年数により露骨な差別化がはかられた。
※2 2019年1月17日の記者会見で、吉田寮が「非正規」生を含む困窮した学生のセーフティネットとなってきたという指摘に対し、川添信介・学生担当理事は「京都大学の福利厚生施設として、『非正規』学生を受けいれるようにすることは現時点では考えていない」「支払ってもらえるコストによって受けるサービスは違って当然だと理解している」と答弁した(出典:2019年2月16日付け『京大新聞』)。
※3 2019年時点で、京大の総学生数の12%である留学生が、学部生・院生以外の学生総数の58%を占める。留学生全体の約2割が学部生・院生以外の学籍である(出典:「京都大学への留学案内 2020-2021」)
2020年6月25日
吉田寮自治会
なお、これらの要求を実現するためには、吉田寮自治会だけではなく学内外の様々な主体から声が上がることが重要である。ぜひ、あなたがたの声を京都大学に届けてほしい。
〈京都大学における関係各所の連絡先〉
●代表
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
075-753-7531
●教育推進・学生支援部 学生課 奨学掛
075-753-2536
075-753-2532
075-753-2535
075-753-2495
●教育推進・学生支援部 厚生課
840kousei@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp