「吉田寮現棟に係る明渡請求訴訟の控訴について」に対する反駁

「吉田寮現棟に係る明渡請求訴訟の控訴について」に対する反駁

2024年3月5日

「吉田寮現棟に係る明渡請求訴訟の控訴について」に対する反駁

2024年3月5日
吉田寮自治会

 2024年2月16日、「吉田寮現棟・食堂明渡請求訴訟」の第一審判決が言い渡されました。判決文は、吉田寮自治会側の主張をおおむね認めたものでしたが、控訴をしないこと、及び話し合いを再開することを求める吉田寮自治会側の主張にもかかわらず、京都大学は2月29日に控訴しました。翌3月1日、京都大学は公式サイトに、声明「吉田寮現棟に係る明渡請求訴訟の控訴について」を掲載しました。この声明には、吉田寮自治会として認め難い箇所や、誤解を招くような文言が随所にみられます。そのため、以下に声明の全文を引用しながら、反駁をくわえます。

吉田寮自治会は、京都大学が訴訟を取り下げ、話し合いを再開することを、あらためて強く求めます。

※以下、引用傍線付部分が京都大学声明からの引用(下線は吉田寮自治会が付した)

 吉田寮現棟に係る明渡請求訴訟の控訴について

 先日2月16日に、本学が京都地方裁判所に提訴しておりました吉田寮現棟に係る明渡請求訴訟の判決言渡しがありました。

▶︎原告・京都大学は現棟だけでなく、食堂までをも明渡請求対象としています。「吉田寮現棟に係る明渡請求訴訟」という表記は、あたかも現棟のみが訴訟の対象であるかのような誤解を招くものです。大学は「老朽化」を明け渡しの論拠としていますが、食堂は2015年に耐震補修が完了しています。この事実から、大学が論拠とする「老朽化」は、学生を吉田寮から追い出すための口実でしかなかったことが窺えます。

 まず、判決内容は、既に本学の学籍を失っている寮生及び基本方針の発出以前に入寮していない寮生への明渡請求を認める一方で、基本方針の発出以前に入寮し本学の学籍を有する吉田寮生には明渡請求を認めないというもので、本学の主張が一部裁判所に受け入れられず、誠に遺憾であると考えております。

判決で指摘された事実に対する判断も示さないまま「遺憾」と述べるのは説明不足です。たとえば老朽化の観点だけ取ってみても、判決文は、「本件建物の耐震性能が不足するとしても、これを理由に在寮契約を継続することが著しく困難となったと認めることはできない」(判決文29頁)と結論づけています。その理由として、2005年の耐震診断は「補強案策定の前提として」行われていること、2012918日付け確約書で「副学長により、本件建物を補修することが有効な手段である」と認められていること、2012年の耐震診断は「取壊しを前提として耐震診断がされたとは認められない」こと、を挙げています。つまり、京大当局は明け渡しを命じるだけの老朽化を立証していないのです。それを根拠をつけて反論するでもなく「遺憾」と表現するのは、いかがなものでしょうか。また、判決文においては確約書の有効性が示されていますが、そのことに一切触れずにこのような文書を出していることも、印象操作と言えます。

 本学は、老朽化により耐震性が低下した吉田寮現棟に居住する学生の安全確保を実現することを最優先課題と考えてきました。

これまで現棟の老朽化問題に真摯に向き合ってきたのは、大学側ではなく、むしろ吉田寮側です。吉田寮自治会は、現棟の老朽化問題を重く受け止め、1980年代以来継続的に現棟補修を大学に提案してきました。20152月に結ばれた確約では、「大学当局は、吉田寮の新寮・新規寮の建設と吉田寮現棟の老朽化対策について、吉田寮自治会と誠意をもって合意を形成する努力を行う」ことが確認されています。

 しかし、2015年、それまで積み上げられてきた現棟老朽化対策に向けた団体交渉が、大学当局によって一方的に打ち切られました。その後も、吉田寮自治会は現棟補修のための対話の再開を繰り返し求めてきました。20187月の少人数交渉では寮自治会から従来提示してきた補修案に加え一部建て替え・増棟も含む具体的な改修案を複数提示し、川添信介・学生担当理事(当時)は「検討する」と述べました。しかしその後6年間、大学は一切の応答をしていません。

 老朽化対策を求める自治会の切実な声に対して、京都大学が耳を塞いできたという経緯を踏まえるのであれば、「学生の安全確保を実現することを最重要課題と考えてきました」という京都大学の主張は、端的に虚偽であると言わざるを得ません。

 そのため、平成29年12月19日には「吉田寮生の安全確保についての基本方針」、平成31年2月12日には「吉田寮の今後のあり方について」を決定し、大学の考え方をウェブサイトに掲載するなど広く周知するとともに、退舎に向けた受け皿として、代替宿舎を希望する者には寄宿料をこれまでと同じ金額で民間の賃貸物件を提供し、早期退舎を促してまいりましたが、

吉田寮現棟食堂明渡請求訴訟・第一審判決文は「在寮被告らは、本件建物が本件自治会により自主運営されていることに大きな意味を見出して入寮しており[中略]低廉な寄宿料で居住することのみが在寮契約の目的であったとは認められず、代替宿舎の提供をもって、本件建物についての在寮契約の目的が達成され終了したとはいえない」(判決文27頁)と代替宿舎によって代替し得ない価値が吉田寮にあることを認定しています。加えて代替宿舎は、大学が一方的に定めた学籍の種別や修業年限などの要件により、確約で認められた入退寮選考権に基づいて入寮した寮生のうち、一部の寮生にしか提供されたにすぎず、これを以て退去通告を正当化するのは無理があります。

 付言すれば、いわゆる「代替宿舎」にあてた費用を、確約書に基づく現棟の補修にあてることもできたはずです。そしてそれこそが、大学が主張する「学生の安全確保」を実現するための最善策だったのではないでしょうか。対話の拒絶と訴訟は、「学生の安全確保」の実現をむしろ遅らせる結果になりました。

残念ながら、その後も吉田寮現棟に居住している者、立入りを続ける者がいることから、やむを得ず提訴に踏み切った次第です。

現棟補修の旨が記された確約書を反故にして、一方的に対話を打ち切ったのは大学側です。そうである以上、あたかも寮生側に非があったかのような書き方は、到底容認できません。訴訟が提起される約2ヶ月前、2019220日に吉田寮自治会は「吉田寮の未来のための私たちの提案」を発出し、現棟からの条件付きの退去を提案しました。その提案を大学の基本方針に完全には従っていないという理由だけでという理由だけで拒絶しておきながら、このように他になすすべなく提訴に至ったかのように記述するのは不当です。

 対話の道が断たれた後も、吉田寮自治会は対話の再開を求め続けました。しかし、京都大学当局は対話に応じることはおろか、説明責任を果たすことすらしていません。提訴が「やむを得」なかったと言うには、提訴に先立つ議論があまりに不十分だったと言わざるを得ません。

 この度の判決では、上記のとおり学籍のある寮生の一部に対する明渡しを否定したものですが、現に老朽化により耐震性能が不足する吉田寮現棟に居住する全ての吉田寮生の安全確保のためには、学籍の有無に関わらず居住者に明渡しを求めることが必要であると考えております。

訴訟において、吉田寮は退寮した被告について、退寮したのだから明渡請求は却下されるべきである旨を主張したのであり、退寮被告の占有を主張したわけではありません。退寮し、学籍を失った者が住み続けているかのような誤解を誘導する表現であることに抗議します。

したがって、本学は本件を大阪高等裁判所に控訴し、引続き裁判所に本学の主張を理解いただくために努めるとともに、改めまして、現在、吉田寮現棟に居住している全ての者に対し、速やかに退居することを求めます。

なお、これまでの経緯、大学の考え方に関しては以下をご参照下さい。

● 吉田寮生の安全確保についての基本方針(平成29年12月19日付け)

●吉田寮の今後のあり方について(平成31年2月12日付け)

▶︎学生と大学の間には力関係の明確な差がある以上、そもそも本事案を訴訟によって解決しようとする態度そのものが不当です。約5年に及ぶ第一審・審議の間には、多くの学生が、訴訟の対応に追われて学業・研究に割く時間を削られ、疲弊を迫られました。それにもかかわらず、訴訟が行われた5年間で進展したことは一つもありませんでした。大学が「理解いただくために努め」合意を目指すべき相手は、まず目の前にいる学生など当事者ではないのでしょうか。

 第一審・判決から控訴の間に、現執行部は、訴訟による解決という道が適切であったかどうか、今一度考え直す機会があったはずです。それにもかかわらず、現執行部が、前執行部の強権路線を無批判に踏襲する決断を下したことは、誠に遺憾です。

 しかし、私たちは今もなお、対話の道が完全に閉ざされたわけではないと考えています。控訴審を取りやめ、話し合いを再開するという判断は今からでも可能です。私たちも控訴を取り下げる用意はあります。大学執行部の責任ある判断を信じて、対話の再開を求め続けます。