吉田寮現棟・食堂明渡請求訴訟 第一審・判決を受けて

2024年2月19日

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2024年2月19日

京都大学総長 湊 長博 殿
京都大学学生担当理事 國府 寛司 殿

吉田寮自治会

吉田寮現棟・食堂明渡請求訴訟 第一審・判決を受けて

 国立大学法人京都大学が吉田寮生・元寮生[1]45人を被告として起こした「吉田寮現棟・食堂明渡請求訴訟」において、吉田寮自治会の主張を概ね認める第一審判決が、2024年2月16日に下されました。しかしながら、京都大学執行部が今日までに訴訟を取り下げず、判決が下されるに至ったことは、大変遺憾です。2019年4月26日から約5年にわたり、吉田寮自治会が京都大学執行部に対して求めてきたことは「訴訟の取り下げと話し合いの再開」であり、依然としてそれは変わりません。吉田寮自治会は京都大学執行部に対し、「控訴をせず訴訟を終わらせること、および確約を引き継ぎ、団体交渉を再開すること」を要求します。

 判決文によれば、吉田寮自治会の法的主体性と、吉田寮自治会と京都大学執行部が交わしてきた確約書[2]の法的効力が認められています。それは、学生により構成される吉田寮自治会が、大学と交渉し、合意する主体として、対等な地位と能力を有することを意味します。すなわち、大学自治の場では、学生も主要な関与主体であることが、法廷で示されました。また、大学の斡旋した「代替宿舎」のワンルームマンションでは補えない代替不可能性を、学生自治寮が有していることも、同じく判決文の中で確認されています。つまり、吉田寮とは、経済的な福利厚生施設であることはもちろん、自治活動を通じた学び・交流の場であることが、司法判断においても確認されたのです。

 吉田寮自治会は、2019年2月20日に発出した「吉田寮の未来のための私たちの提案」[3]のなかで、吉田寮の意義を以下のように掲げています。「経済的困難をはじめとする様々な事情を抱えた学生の福利厚生施設」、「豊かな自治が行われ多様な人が集い交わる場」、そのための「寮生自らが最適な寮の運営を主体的に決定するための機関としての寮自治会」。これらが司法の場でも認定されたことを、京都大学執行部は、重く受けとめるべきだと考えます。

 京都大学執行部が、吉田寮自治会との対話を再開することは、吉田寮自治会のみならず、京都大学の未来にも大いに資することだと考えます。京都大学はその基本理念[4]において「地球社会の調和ある共存に貢献する」という社会的使命を持つ教育研究機関として、「学問の自由な発展」を掲げ、対話と自治の重要性を打ち出しています。学問の自由は大学の自治に根ざし、大学の自治は、闊達な対話に立脚するものであるはずです。そして、吉田寮は京都大学の自治空間であり、寮生を中心とした当事者が主体的に試行錯誤をしながら、対話による運営を続けてきました。であるからこそ、京都大学と吉田寮とは、対立するものではなく、むしろ同じ方向を向いて、対話によってともに未来を築くことが可能な関係にあるのです。

 今般の判決が認定しているように、吉田寮自治会と大学執行部は交渉により寮の管理のあり方を決定してきました。実際に、交渉の成果[5]として、食堂の耐震補修や新棟の建設がなされた歴史があります。現棟の補修に向けて協議を続けていくことも合意事項のひとつです。この裁判は、大学執行部がその合意を一方的に無効だと主張し、建物の老朽化を理由として起こされたという経緯がありますが、結果的には、5年に及ぶ裁判期間中に、執行部との間で老朽化対策の話し合いは進みませんでした。訴訟がなければ、寮自治会と大学執行部の本来的な目的であった現棟老朽化問題の解決を達成できたはずです。従来行われてきた対話という手段によらず、訴訟という強引な手段によって解決を目指すことが本当に妥当だったのかどうか、京都大学執行部は今こそ再考すべきではないでしょうか。

 以上を踏まえ、吉田寮自治会は、京都大学執行部に対して、「控訴をせず訴訟を終わらせること、および確約を引き継ぎ、団体交渉を再開すること」を要求します。一審判決が終わった今こそ、法廷ではなく学内での問題解決に立ち返る最良の好機に違いありません。対話こそが大学の本分です。


[1] 2020年3月31日に当局が追加提訴した25名の被告には、当時既に吉田寮を退寮し居住実態のない元寮生15名も含まれていた。

[2] 確約書には、入退寮選考権や団体交渉権も含まれる。

・1972年7月1日に結ばれた確約書
「寮自治会の行う寮の自主管理、自主選考についてその内容の如何にかかわらずこれを認める。入退寮権は寮自治会が一切行使することを認める。」
・2004年4月28日に結ばれた確約書
「吉田寮の運営については今後とも寮生と団体交渉を行い、合意の上決定する。また、吉田寮自治会が自治・自主管理により吉田寮を運営するものとする。」
・2015年2月12日に結ばれた確約書
「大学当局は吉田寮の運営について一方的な決定を行なわず、吉田寮自治会と話し合い、合意の上決定する。」
いずれの確約書も今般の判決においての認定事実となっている。

[3] https://yoshidaryo.org/archives/seimei/495/

[4] https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/about/operation/ideals/basic

[5] ・2012年9月18日に結ばれた確約書
「吉田寮の耐震強度を十分なものとし、寮生の生命・財産を速やかに守るために、吉田寮現棟を補修することが有効な手段であることを認める。」「大学当局は、本確約末尾に示す『吉田寮現棟(管理棟・居住棟)の建築的意義』を認め、その意義をできうるかぎり損なわない補修の実現に向けて、今後も協議を続けていく。」「吉田寮食堂には現存地において現在の姿を最大限残した形での耐震補修を行う。補修方法の詳細については今後も継続して協議を行う。」
この確約書も、今般の判決においての認定事実となっている。