国立大学法人法の改正に抗議し、改正案の廃案を求める声明

国立大学法人法の改正に抗議し、改正案の廃案を求める声明

2023年12月5日

国立大学法人法の改正に抗議し、改正案の廃案を求める声明

吉田寮自治会
2023年12月5日

1. 要旨

 目下臨時国会で審議されている「国立大学法人法」1の改正案は、大学自治のあり方を根本から覆そうとするものである。大学独自の意思決定が困難となり、ひいては自由な研究活動を後退させるものである。吉田寮自治会は、現在審議されている同法の改正に強く抗議し、改正案の撤回を求める。

2. 経緯

 国立大学法人法とは、2004年に国立大学が独立行政法人化されるに際し、公布された法律である。「国立大学を設置して教育研究を行う国立大学法人の組織及び運営」2について定めることを目的としている。
 今年10月に開会した臨時国会において、文部科学省が同法の改正案を提出した3。同法案は、数多くの大学教員や学生、市民、議員の反対をよそに、既に衆議院を通過し、現時点4では参議院で審議がなされている。

3. 改正案の具体的内容

 同法改正案の核となるのが、「特定国立大学法人」に対する、「運営方針事項」の決議および「運営方針会議」の設置である。
 前者は「中期目標についての意見、中期計画の作成又は変更並びに財務諸表、予算、事業報告書及び決算報告書の作成に関する事項」5を指している。
 より重要であるのが、後者の「運営方針会議」である。これは三人以上の運営方針委員及び学長からなる合議体とされており、委員は事前に文部科学大臣の承認を必要としている。同会議体は、運営方針事項の決定に関わり、その内容に基づいて大学運営が行われていない場合に学長に改善要求を出したり、学長の選考に関して意見を述べたりすることができるとされる。
 改正案はさらに、債券発行の要件緩和や、大学の土地貸出のための手続の簡便化を規定している。
 「特定国立大学法人」とは、政令で定めるとしており、本改正案においては、東京大・京都大・東北大・大阪大・東海国立大学機構(名古屋大・岐阜大)6が挙げられている。

4. 問題点

 同法の改正はひとえに、大学自治のあり方、学問の自由そのものを揺るがすものである。
 日本国憲法第23条において、「学問の自由」が定められている。そして、各大学が政治から独立して自治を行うことにより、その自由な研究活動が、制度的に保障されるものであると解釈される。
  これまで国立大学は、法人化による学外委員を含んだ経営協議会の導入や、学校教育法の改正7による教授会の権限縮小により、大学自治の側面において、大きな痛手を負わされてきた。それでも、学長や教授の選考などの人事権は、いまだに大学側が有しており、大学自治の最後の砦として機能しているといえる。
  本改正案は、 「運営方針委員」の決定にあたり、文部科学省の承認が必要であるとしており、大学運営が「運営方針会議」の決定に基づいていないと判断されれば、「学長へ改善措置を要求」するものとなっている。これは、大学の運営主体に文部科学省が直接関与するものである。さらに学長選考に対し「意見を述べる」ことを規定しており、かろうじて持続している大学自治に、とどめを刺すものとなりうる。 現在においても、諸々の介入によって予算が減額されるといった形で研究活動が阻害されているとの声は、多く聞かれるものである。大学外部の、しかも政府機関の意向が、予算編成や人事といった意思決定に直接反映されることが、そのことに拍車をかけるのは明白である。法改正によって、学問の自由が脅かされることが危惧される。
  また、債券発行の要件緩和や、大学の土地貸出のための手続の簡便化の規定により、大学が自力で利益を出し、独自の予算を確保する要請がなされている。各大学が財政状況の悪化により研究費が割けないと言った事情に対応したものであろうが、この問題は、政府が大学運営交付金を増額し、基礎研究への予算を割くことにより解決するものである。短期的かつ商業主義的な利益とは一線を画した環境にあればこそ、基礎研究分野が発達し、研究活動全体が底上げされる。
 大学は研究活動を行う場であって、その知的活動の成果は公共財となるものであり、決して利益を上げるための場所ではない。大学は、商業主義の道具ではない。研究の場としての大学の本分を奪おうとする本法案に、強く抗議の意を表明する。

5. 吉田寮自治会として

  我々吉田寮自治会が本改正案に抗議する理由は、我々が大学の構成員であり、大学自治の意義を重要視する主体であるからである。また、現在も学生として研究に励み、研究者を志している寮生も少なくない。政府や商業主義に干渉されない、自由な研究活動・自治活動を行える環境こそ、大学のあり方として最も重要視するべき要素であるといえる。
 本法案改正により一層強化されることが懸念される、政府の意向が大学の運営に上意下達に反映される意思決定方式は、吉田寮自治会や他の学内自治組織が重要視してきた学内における意思決定のあり方に、真っ向から反している。学生などを含む幅広い当事者を踏まえて政策を決定することが、大学が社会における意義を確立する上では不可欠である。
  また、大学に利益を出すことが要請されることで、利益が上がるわけではない、学生の福利厚生にかかる予算は真っ先に削減されうる。最近でも京都大学は、吉田寮生に対し明渡請求訴訟を起こし、学生のセーフティー・ネットとして機能していた保健診療所を、多くの学生の反対を無視して一方的に廃止するなど、福利厚生の軽視が目立っている。学生の学ぶ権利を保障し、研究者を養成するという役割が期待されるはずの大学において、こういった流れが加速することが危惧される。我々寮自治会は、学生の福利厚生の重要性を認識する主体として、学生、研究者が安心して学び、研究できる大学を毀損しかねない本法案に抗議するものである。

6. おわりに

  以上で見たように、本改正案は、大学独自の意思決定を阻害し、自由な研究活動を損なうものである。これまでは、あらゆる圧力のなかでもかろうじて「大学の自治」が存在し、だからこそ、独創的な研究が行われ、学知として蓄積されてきたのである。本改正案は、研究活動、ひいては社会全体の発展を妨げるものである。
  大学の自由な研究環境を、そして学問の自由を守るために、我々は「国立大学法人法」改正案に強く抗議し、その廃案を求める。

【脚注】

  1. 2003年7月16日公布, https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=415AC0000000112
  2. 第一条
  3. https://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/mext_00052.html
  4. 2023年12月5日
  5. https://www.mext.go.jp/content/20231031-mxt_hourei-000032513_2.pdf
  6. https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000322157.html
  7. 2015年4月施行

【参考資料】
国立大学法人法(e-Gov法令検索):https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=415AC0000000112_20230220_504AC0000000094
文部科学省HP「国立大学法人法の一部を改正する法律案」:https://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/mext_00052.html
テレビ朝日「東大や京大など大規模な大学法人に新たな合議体の設置義務など 国立大学法人法改正案」(2023年10月31日配信):https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000322157.html