トランス女性の女性専用スペース利用の問題について

トランス女性の女性専用スペース利用の問題について

                                         上田雅子

 昨今、Twitter上でトランス女性への差別的な言説が非常に溢れ出てきています。きっかけは2018年の7月にお茶の水女子大学が戸籍上の性別に関わらずトランス女性を受け入れるということを表明したことで、女性専用スペースをトランス女性が利用しやすくなることへの懸念がTwitter上で盛んに言われだし、トランス女性への誤解と偏見に促進されて瞬く間にトランス女性を標的にしたさまざまな内容の差別的なツイートがTwitter上にあふれるようになりました。今回はトランス女性当事者である私がトランス女性の女性専用スペース利用の問題について述べます。

 まず、トランス女性とは何者でしょうか?簡潔に言うと、生まれた時に女性として性別を割り当てられなかったが、社会生活の過程で女性として過ごすようになった人のことを指します。女性として生活している人がシス女性(※トランス女性でない女性のこと)と同じ権利を有するのは原則として当然のことです。シス女性が持っている権利をトランス女性が持てないということはトランスジェンダーの人間への差別に他ありません。ですので、この社会に性別で利用資格を区切られた空間がある以上、トランス女性が女性専用スペースを利用できるのは至極当然のことであり、それを拒否することは、トランス女性の女性としてのジェンダー・アイデンティティを否定する暴力に他なりません。

 今現在、Twitter上で流れているトランス女性差別言説では、トランス女性を女性として認めないという当事者にとって非常に侮辱的な、あるいはトランス女性に女性専用スペース利用を認めないのは差別ではなく区別であるといったさまざまな差別の問題が語られる際に差別者が自身の差別性を言い訳するために使う論法が使われています。その上で一口に女性専用スペースといっても具体的にどんな場所のことが議論の対象にされているのでしょうか?

 Twitter上でよく話題にのぼるのは、公共の場所に設置された女子トイレと銭湯・温泉の女湯のことです。何がどう問題だとされているのかを見ていきます。

 まず、女子トイレについては、よく言われるのが、1点目に盗撮などの性犯罪目的で女装して侵入してくる男性とトランス女性との見分けが外見上つきにくく、トランス女性と偽って女子トイレに侵入してくる者が急増する、2点目にたとえトランス女性だとしても外見が男性に見える人が女子トイレに入ってくるのがシス女性に恐怖を与えるといったものです。

 これらの懸念について私なりに答えますと、1点目についてはあくまでも性犯罪が起きていることが問題なのであって、トランス女性の権利制限を行う正当な理由にはなりません。やるべきは盗撮などの性犯罪を防止するための工夫をトイレの構造を変えることなどを含めて実施することです。トランス女性の権利を後回しにすること自体が差別です。また、性犯罪を起こす可能性がある人間が男性に限定されて語られるのも問題です。誰もが性犯罪・性暴力の加害者になる可能性が考慮されていません。シス女性で盗撮などの犯罪を行う目的で女子トイレに侵入する人はまずいない、などとは言えないはずです。2点目については、身体的な特徴を理由に他人を排除することを正当化する論であり、非常に差別的です。そしてそもそもトランス女性の多くが自分が外見・容姿の面で女性に見えるかどうかを日常生活で問われ、自身も悩んでいるという現実がこの問題の議論の際に何ら考慮されていません。女子トイレ利用でトラブルが生じること、女装した性犯罪者と同一視されることを懸念しているのが他ならぬトランス女性自身なのです。女性であるにも関わらず外出の際に女子トイレを使うことにもいちいち気を使わざるを得ない。この現実こそが問題とされるべきなのです。

 次に女湯の話をします。Twitterでよく言われるのは、戸籍上の性別変更の要件から性別適合手術を受けていることが除外されたら、性別適合手術を受けていない、いわばペニスを有したトランス女性が銭湯や温泉の女湯に入ってくる、だから問題だというものです。まず私から言わせていただくと、身体的特徴を理由にして他人を排除するということがそれ自体差別的で、言語道断です。また、トランス女性は自分の身体に男性と間違われる特徴があることを非常に懸念するものです。ですので、現状でも性別適合手術を受けている、外見が女性に見えるトランス女性でないと自由に女湯に入れないのが現実です。トランス女性がトラブルに巻き込まれない形で銭湯や温泉を利用できるように施設の構造を変えることや利用方法などの工夫こそが求められているのです。

 最後に私から言わせていただくと、Twitter上でのトランス女性への差別言説の氾濫も公共の場所の女子トイレや銭湯・温泉をトランス女性が利用しづらいのも、彼女たちの存在を不可視化し、シスジェンダー中心の社会を作ってきたシス側の責任です。マジョリティであるシスジェンダーの人間の責任で差別をやめさせ、社会を変えるべきです。