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公開質問状に対する総長選候補者の回答・反応についてのコメント
2020年8月6日
吉田寮自治会
吉田寮自治会は7月1日、京大総長選の候補者6名に対して学生や寮に関する政策についての考えを問うべく、公開質問状を出しました。今回、本質問状への総長候補者の回答や反応について、寮自治会としてのコメントを発表したく思います。
既に7月21日の総長選考会議において、湊長博氏を次期総長とする決定が行われています。しかしながら、本質問状で取り上げた事項は何れも特に学生にとって重要な事柄であり、今後の京大運営において必ず議論されなければならない問題であると考えます。今後の対話の糸口、また議論を深める一助として、質問状への回答に対する寮自治会のコメントを述べさせていただきます。ご回答いただいた候補者の方はもちろん、現執行部・次期総長・他のあらゆる教職員の方に、参考にしていただきたく思います。
なお後述しますように、今回次期総長に選出された湊長博氏は本質問状に対して受け取り自体を拒絶しています。大学構成員の皆さん(ことに総長選考会議の委員や教職員の皆さん)には、学生団体からの質問状に対しその内容を確認すらしない態度が次期総長として果たしてふさわしいものか、今一度考えて頂きたく思います。
1.各候補者からの反応に関して
吉田寮自治会は、6名の候補者全員に、郵送などで公開質問状を送付させていただきました。そのうち現理事である北野正雄氏、湊長博氏からは「受取拒絶」として返送されてしまいましたことがまず何よりも残念でなりません。寮自治会が送付した公開質問状を開封・確認すらしなかったということであり、厳に抗議します。吉田寮生との話し合いを拒絶し、一切の歩み寄りを拒絶してきた現執行部の姿勢をそのまま踏襲している点で問題があるだけでなく、広く学生が関わる学内の問題について、取り組む意志がないものと解さざるを得ません。また、村中孝史氏からは、一切の返信・反応がありませんでした。
大嶋正裕氏からは、「有権者である教職員の方々には、既に第一次総長選候補者としての所信を伝えているので、寮自治会からの公開質問状への回答は差し控える。(2020年7月10日付)」旨の返答がありました。吉田寮自治会宛に伝えていただいたことは、湊氏、北野氏、村中氏の3名よりもいささか誠実であるのかもしれませんが、「有権者でない」という点において本学の学生である吉田寮自治会からの質問にお答えいただけなかったことは、残念です。有権者でないからこそ、公開質問状という形で私たちが重視している内容を総長選に際してお伝えしたのであり、その内容に真摯に向き合っていただきたかったです。
寶馨氏、時任宣博氏からは、期日内に、寮自治会からの質問全てに対してご回答をいただきました。お礼申し上げます。
2.回答内容について
2−1.吉田寮自治会に対する回答内容について
(1)学生への情報公開について および (2)学生との話し合いについて
寶馨氏は「風通しのよい京都大学」を作るために「自己と他者の自由や多様性を尊重する」ことにつながる「対話」が不可欠であるという立場を示され、「学生との話し合いはもちろんのこと、学内の教職員、学外の市民との対話や合意形成を積極的に行っていく所存です」と述べられました。また2015年以降現在に至るまで停止されている学生など当事者への学生担当理事による「情報公開連絡会」について、「準備が整い次第、できるだけ早く情報公開連絡会を再開したい」とされています。
現在の執行部による様々な学生の活動の縮小・解体は、学生など当事者との公開の場での話し合いの拒否とともに行われてきました。故に、寶氏が対話を尊重する姿勢を打ち出したのは極めて重要なことと考えます。さらに付け加えれば「対話」の内実が単なる一方的な「説明」と化さないように注意することも大切だと考えます。また情報公開連絡会は大学の意思決定プロセスから制度的に排されている学生など当事者が、自分たちにも関わりある大学内で進行中の政策に、決定以前にアクセスするための重要な回路です。寶氏が表明したように、できるだけ速やかな再開が必要です。
時任氏は、大学の規模や構成員の多様性の点で全て対面型の情報共有を図ることは困難としつつ、現状として双方向での意見交換の機能が不足している事実を認めています。「本学所属の学生全体に平和な雰囲気での情報公開連絡ができる環境や仕組みを再構築できれば良いと思います。」と述べておられますように、本学に在籍する学生全体が平和に安心して学生生活を送るためには、情報を十分に与えられなかったり、不本意な行動を強要されたりといったことが起こらないように気を付けなくてはいけません。争いを未然に防ぐには、早期の情報共有と意思疎通が重要です。その役割を担うものとしての情報公開連絡会が早期に再開されることが望ましいと考えます。また、「学生に関する事項にも色々な内容、規模のものがある上に、対象を限定するものなどもある」「対話のシステムを構築するにしても、フレキシブルで多様な窓口を用意しなければ」と述べておられますが、確かに事項によってはこうした個別対応が必要になるものもあると思います。対話相手の状況を鑑み、「フレキシブルで多様な窓口を用意する」という方向性は、たとえば日本語以外の言語保障を当局側が責任を持って用意するべきという観点などから大枠では賛成します。一方で、大学で検討され決定される事項とは公共のものであり、「関係者」を狭く限定することなく、公の場での議論に揉まれることも重要と考えます。
(3)学生への経済支援について
寶氏は「有為の学生が教育を受ける機会を奪われることのないように、可能な限り広く支援をする必要がある」と述べられ、現行の授業料免除制度が親の年収などで画一的に審査されている点についても個別状況に寄り添って支援の判断を行う仕組みづくりをしたいとしました。時任氏も現行制度が「良い意味で再整備されることを期待する」、「フレキシブルな学生支援を常に心がけるべき」と述べられており、また「日本人学生と外国人留学生の公平性や、困窮学生と一般学と生の公平性を念頭に」置く必要があるとされています。これは直近の文科省や京都大学による新型コロナウイルス感染症対策としての学生支援給付金の申請要件の問題が念頭にあると思われます。
両氏が現行の画一的な奨学金・授業料免除などの制度設計を良しとせず様々な個別事情に即した経済支援を重視していることは重要だと思います。あらゆる人の学ぶ権利を補償する公的機関の一つである大学としては「有為の(能力がある)学生」という観点が先行して安易な成績要件と結びつくことなく、きめ細やかな福利厚生を充実する必要があると考えます。
(4)学生寮について
寶氏は、吉田寮生への立ち退き訴訟提訴を、『京大における近年の「変化」を象徴する出来事』とし、「学内外の信頼を取り戻すためにも、まずは大学が学生を告訴しているという状態を一刻も早く解消し」「当事者との対話を再開する必要があります」との姿勢を明確にしました。また「これまで様々な形で吉田寮の課題に尽力されてきた学生・教職員の対話の蓄積をふまえて、できるだけ速やかな解決を図りたい」ともされています。現在の吉田寮をめぐる問題の根幹として、(1)・(2)でも述べた当事者との話し合いの拒否とともに、歴代の副学長や教員と寮自治会が丹念な話し合いを重ねる中で積み上げてきた確約(約束)や建物の老朽化対策の議論を、現執行部が白紙化し寧ろ老朽化を放置し解決を遅らせてきた問題があります。その点からも寶氏が表明した姿勢は、吉田寮の今後のあり方について建設的な解決を行うために必要な第一歩だと考えます。なお、言葉尻を捉えるようで恐縮ですが、この度の吉田寮生に対する立ち退き訴訟は民事訴訟であり、大学が学生を「提訴」しているというのが正確な文言です(「告訴」とは刑事訴訟の被告とされることを意味します)。
時任氏は裁判の当事者ではないとして特に自身の意見は述べられていません。しかし、吉田寮をめぐる状況は、単に現在の吉田寮生と大学執行部の間だけの問題ではなく、広く大学の福利厚生や意思決定のあり方に関する問題です。その点からは、多くの学生・教職員に当事者意識をもってもらいたいのが正直なところです。もちろん、現在進行中の吉田寮生提訴は実際に被害当事者の存在する問題であるため、これまでにノータッチであったり、加害者である執行部側だけなど一方からの話しか聞いていない状態で、無責任に噂に基づいて判断したり、デマを広げることに加担しないよう慎重であるという姿勢は、一定誠実であると思います。
(5)CAP制について
寶氏は、学生全員一律(の単位上限)とする必要はなく、学生個々人の事情や希望に即して学習や課外活動等に取り組むことが有意義だと述べられ、「よりよく学びたいという意欲を削ぐことのないような検討を全学的な対話を通じて行いたい」とされています。時任氏は、制限なしに登録・履修した場合に履修科目の授業進度についてゆけず進級要件を満たせなくなり、再履修・留年し学習意欲の低下を招くケースもある、と述べ、その上で学部の制度担当教員等との相談により上限変更や緩和の提案をすることは可能だとしました。
CAP制の問題点に関しては、公開質問状の質問文にて述べた通りですが、更に付言しておくなら、カリキュラムの選択や履修の自己管理それ自体についても、学生自身が考えながら試行と改善を繰り返し調整していくという教育機会の一つであると考えています。「留年」という結果に対して、即座に強いペナルティが課され、学習環境を損なう制度設計にも問題があるのではないでしょうか。
(6)ハラスメント相談窓口の改善について
まず、吉田寮自治会からの質問状において本来「法務・コンプライアンス担当副学長」である役職名が「法務コンプライアンス担当理事」と誤記されていたことについて訂正し、お詫び申し上げます。
ハラスメントの相談・調査主体は、加害者との権力的従属関係や利害関係を出来る限り排して構成される必要があります。この点、総長や他の理事・副学長といった大学内で最も強い権限をもつ人物によるハラスメントについて、法務・コンプライアンス担当副学長をトップにおく学内ハラスメント相談窓口は、その行為を矮小化・隠ぺいしてしまうという問題が想定されます。また時任氏は、「規程上は、担当理事が独立性を担保して問題解決に当たることになっていると思いますので、独立の対応窓口を常設する必要はない」と述べられていますが、ハラスメントとはその場の責任者・担当者こそが最も起こしやすく、またその者達のハラスメント行為を「ハラスメントである」として取り上げることが最も難しいものである、というハラスメント問題の性質をおさえていただきたいと思います。ハラスメントとは行為者の悪意によるものだけでなく、無知や無理解によって不作為的に、またよかれと思って裏目に出るという形によっても起こるものです。ハラスメントが生じる原因は、行為者の悪意だけではなく、二者間に権力関係が存在し対等なコミュニケーションができない関係性というものもあります。よって、学内で起こる全てのハラスメント問題を一つの窓口体制で扱うということが、そもそも構造的に無理があるのです。
寶氏はこれについて重大な問題として認識するとのことであり、是非学内の様々な立場の人々との話し合いの上で、取り組んでいただきたく思います。
また時任氏は京大執行部からは独立した監事監査が総長・執行部の業務活動の監査を行っていることを挙げられています。しかしながら、現行の監事は他大学の学長や理事経験者、産業界から選ばれる傾向があり、またそもそも監査の過程で学生や役員・評議員等以外の教職員からの聞き取りを行うことはしておらず、到底学内の相対的な弱者に寄り添った(少なくともこうした視点を反映した)法人業務監査を行っているとは言い難いです。例えば2019年6月に公開された直近の監事監査報告書(http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/about/foundation/audit_all/audit/documents/h30/h30kanjikansahoukoku.pdf)では、吉田寮をめぐる問題に関し「吉田寮生の安全確保とともに学生寄宿舎の適切な管理方針が示され…(中略)…問題解決に向けて大きな進展が見られた」と評価しています。寮自治会を「責任を取ることのできない入居者団体」、低廉な寮費を「時代錯誤的」と断じる等、現在の寮運営についてこれまで寮生・教職員など現場の当事者が積み重ねてきた議論については何ら参照せずに、一方的な決めつけを行って憚りません。そして大学当局が寮生に対して一方的な退去期限を設定し、保護者や指導教員など私的な人間関係をも利用して立ち退きの圧力を加えていること、当事者である吉田寮生との話し合いを打ち切り、ついには寮生の民事提訴に向けて法的手続きを進めたこと等、寮生との非対称な力関係を利用した大学当局によるハラスメントについては、一言の批判的考察すら行っていません。
(7)留学生への言語保障について
寶氏、時任氏とも京大の現状について、各部局での部分的な対応は行っているが、全学的には不十分であると考えているとの回答です。時任氏は通訳者の雇用について人件費負担が障害であると指摘していますが、留学生受け入れを政策として強く打ち出している京都大学ではなおのこと、言語面での情報保障については優先課題の一つとしてもいいはずだと思います。また直接学生対応を行っている窓口(厚生課、部局教務など)に優先して配置するという選択肢も考えられるのではないでしょうか。
また寶氏が述べている「京都大学にいる間に日本語通、日本通になってもらいたい」というのは、ともすれば留学生に対してのみ不均衡に言語習得、文化理解、コミュニケーション上のコストを押し付けてしまうことに繋がってしまうのではないかと懸念しています。京都大学は留学生や教員などの外国人労働者も含めて構成員としているのですから、留学生だけでなく構成員全体で、情報共有やコミュニケーションにおける言語の壁を乗り越えるための努力を行うことが望ましいと考えます。そのために必要な制度設計も含めて執行部には取り組んでいただきたく思います。
(8)今後の抱負について
寶氏は「世界規模で進む分断や対立を直視し、自由と自治の精神の下に、豊かな学知を生み出し、優れた人財を育て世に送り出して、地球社会の調和ある共存と持続的平和の確立に貢献していく」とし、「現場主義」や「対話と合意形成の重視」などを掲げています。時任氏は、「国立大学法人化後に直面した大学改革、機能強化等の各種政府施策への対応は、ともすれば大学を構成する各部局、教職員、学生の活動を委縮させる状況を生み出し、本学が理想とする大学運営に少なからず負の影響を与えてきた」として、教職員や学生が活力を最大限発揮できる研究教育環境を整えたい、としています。
様々な立場の多くの人々が活動する京都大学において、こうした理念を実現していくには、トップダウンの決定を行うのではなく、各現場の当事者の意志が尊重され、公的な議論の場が開かれ合意形成が図られることが不可欠であると思います。
2−2.他団体への回答内容について
「自由の学風にふさわしい京大総長を求める会」の公開質問状「質問2:吉田寮裁判」への回答(https://president-election.hatenablog.com/entry/2020/07/11/131441)に対して、事実誤認が含まれていましたので、指摘させていただきます。
大嶋正裕氏からの回答では、「学生以外の者が現棟に居住し続けており、寮生が誰なのかを確認できず、新棟や民間アパートへの移転による合意がどこまで取れているのかが不明であったため、司法の手続きをとったと聞いています」と述べられています。これはいったい誰からの伝聞なのでしょうか。「学生以外の者が現棟に居住し続けており、寮生が誰なのか確認できない」という伝聞情報について事実をお伝えしますと、吉田寮(現棟・新棟共に)に居住する者は全て吉田寮自治会による入寮選考を経て決定しています。吉田寮の入寮資格は「京都大学に学籍のある全ての者及びその者と切実な同居の必要性のある者」として公表してあります。確かに、この入寮資格の記載における「その者(京都大学に学籍のある者)と切実な同居の必要性のある者」が必ずしも京都大学に学籍があるとは限りませんが、これは学生の介助者や“家族”(※)など「切実な同居の必要性」を要件としており、元は京都大学の留学生寮における募集要項をもとに1990年代より吉田寮においても導入したものです。寮とは住居ですから、生活の実際的な切実性によって柔軟な運用が為されることが望ましいと考えています。こうした事実にも関わらず、あたかも寮の居住実態が不正常であるかのようなミスリードのために不正確な情報が流布されている状況は、いささか「不正常」であるのではないかと思います。
(※)「家族」と言うときに、異性間の婚姻関係をもとにしたものが想定されることが多いが、こうした特定の関係性のみを優遇する差別的側面を取り除いて、「切実な同居の必要性がある者」としている。
また、「新棟や民間アパートへの移転による合意がどこまで取れているのかが不明」とありますが、新棟や民間アパートへの移転について、大学当局から寮自治会に対して提案が為された上で合意形成が為された事実は一度もありません。2017年12月大学当局による突然の「退去通告」発表に併せて、吉田寮に居住する寮生に対して、その保護者や指導教員などを通じて「大学の決定に反して寮に住み続けることは不法行為となる」といった圧力が掛けられました。その状況下で、やむを得ず大学が斡旋する民間アパートへの移転を選択した寮生がいたことは事実ですが、これは大学当局による「脅して言うことを聞かせる」ハラスメント行為によるのが実際の所です。
続いて、大嶋氏の回答には「私としては、学生が、自分の命を盾に、吉田寮に立てこもるような状況は、できるだけ速やかに解消すべきと考えます」といった記述が見られます。この表現の仕方についても、いささかミスリードであるように感じられるため言及させていただきます。吉田寮現棟の補修は、寮自治会が少なくとも2012年以降大学当局へ要求し続けてきており、2014年には当時の赤松明彦副学長と「京都市条例を適用した補修案」を寮自治会と大学当局で協力して行っていく方向で合意が為されておりました。こういった合意形成過程を無かった物であるかのように、補修への協力を怠り続け、そのための話し合いを拒み続けて来たのが現大学執行部です。旧制高校時代の建築物である吉田寮現棟の建築的価値に、生活しながら間近で接して来た吉田寮生としては、その歴史的価値が安易に手放されてしまう事態を懸念しています。また、何よりこの建物・空間において、自治寮として運営してきた吉田寮の意義を、後輩に残していきたいと考えています。そのために、大学当局との話し合いについて、寮自治会は一切拒絶することなく対話の門戸を開き続けていることを付言しておきます。