吉田寮現棟の補修に関する京大役員会への要求書提出と
現棟屋根の自力補修計画について
2022年8月5日
吉田寮自治会
こんにちは、吉田寮自治会です。
この度吉田寮自治会は、京都大学役員会に対して、吉田寮現棟の老朽化対策に向けた話し合いの再開と、抜本的な老朽化対策を行うまでの現棟の継続的補修を求める要求書を提出しました。
吉田寮自治会はこれまでにも再三にわたりこれらを大学当局へ求めてきましたが、残念ながら役員会は、寮自治会との話し合いを拒否し、現棟=木造建築の老朽化を防ぐために必要な継続的な補修・メンテナンスをも拒んでいる状況が続いています。
そのため私たちは、これ以上当局が補修を拒否するのであれば、寮生の生活環境を維持し、また歴史的建築的価値を有する現棟の将来的な補修存続に向けて、自分たちで現棟の小中規模の補修を行わねばならない段階に至っていると考えています。これまでにも寮自治会は吉田寮を自治運営する主体として様々な形で自力補修(小規模補修)を実施してきましたが、今回より規模の大きい、現棟の屋根瓦の修繕・応急処置を、瓦屋さんに依頼して実施することを計画しています。
本声明では、私たちが自力補修を行わねばならない理由と、現在計画している現棟の屋根の自力補修について、お知らせします。
1、なぜ自力補修を行わねばならないのか
一言で言えば、
①京都大学役員会は、従来大学の責任として行なってきた現棟の修繕をサボタージュしている。
②吉田寮自治会は、将来的な現棟の大規模改修に向けて、寮生の生活環境を維持し建物の補修可能性(建築的・歴史的価値)を損なわないため必要な手段を講じる必要がある。
ということです。
役員会の補修サボタージュについては、以下の文章も参照ください。
「吉田寮近況報告①:当局による補修サボタージュ問題について」(2021年10月14日裁判報告集会資料)https://www.yoshidaryo.org/archives/sosho/1934/
●現棟老朽化対策をめぐる経緯
まず前提として、大学役員会が現在現棟の老朽化を理由に寮生の退去を強要していること自体の問題性について、整理します。
かねてから主張しているように、現棟は法的に強制立ち退きを行えるほどに老朽化(朽廃)しているわけではありません。とはいえ、100年以上が経過する中、現棟の耐震性・安全性の向上は重要な課題であり、20年以上にわたり大学役員会との間で現棟老朽化対策について協議してきました。2012年には現棟の建築的意義(後述)が認められ、大規模補修に向けて継続協議するという合意を交わし、以降具体的な補修方法について両者は議論を進めてきました。
ところが2015年、役員会は寮自治会との話し合いを一方的に打ち切り、寮自治会の具体的な現棟改修案(※1)に対して「検討中である」以外には一切の回答を行わないようになりました。その挙句、2017年12月には建物の老朽化を根拠にして寮生の立ち退きを迫るようになったのです。2019年に寮自治会は条件付きで現棟から一時的に退去することも含めた妥協案を提示しました(※2)が、大学役員会はそれすら一蹴して明け渡し訴訟を提訴しています。
こうした経緯を踏まえれば、京大役員会が「老朽化」を理由に寮生に立ち退きを迫ること自体がおかしいのです。役員会が真に寮生の安全確保を考えるならば、寮生の追い出しに費やされる費用や時間を用いて建物の改修を行うことが、最も有効なはずです。それを避けている役員会は、吉田寮のあり方(自治)について意見の異なる他者を決定プロセスから締め出すために寮生の追い出しに固執しており、寮生の安全確保を二の次にしていると考えざるを得ないのです。
●京大役員会による補修サボタージュ
加えて問題なのは、現在大学役員会が、日常的なメンテナンスを含め現棟の継続的な維持管理責任を一切放棄しているということです。
現棟のような伝統的木造建築は、日々のメンテナンスを絶やさないことで、非常に長期間に渡って使い続けることができます。例えば樹木を剪定したり、細かい雨漏りを修繕したりです。こうした小中規模の修繕については、従来基本的には、寮自治会と当局の折衝に基づいて、大学の予算において対処されてきました。吉田寮は経済的その他の事情で困窮する学生にも学ぶ権利を保障する福利厚生施設であり、その修繕は公的な負担により行われるべきだからです。とは言っても、自治空間である吉田寮においては、当局や業者に建物の維持管理をゆだねるのではなく、実際にそこを利用する寮生・寮外生が建物の状態をチェックし、自分たちでできる補修活動は自分たちの手で行ってきました。
ところが2018年9月の「退去期限」を過ぎると、大学役員会はほぼ全ての現棟の小・中規模補修を拒否するようになりました。これは、建物の維持管理のための負担を全面的に使用者にしわ寄せさせることであり、「当局の責任において吉田寮の補修を行う」という旨の確約(※3)にも明確に違反しています。
役員会が現棟の補修をサボタージュすることは、寮生の生活環境を脅かすばかりか、現棟の老朽化を進行させてしまい、将来的な現棟の補修存続の可能性をすら危ぶませることに繋がります。
●京大役員会による吉田寮現棟の歴史的・建築的価値の軽視
現棟の歴史的・建築的価値は寮外の多くの専門家からも指摘されています。建築士の調査で、吉田寮は旧制第三高等学校から移築・転用されたものであり、寮食堂と現棟の一部は京大最古の建築物である、ということがわかっています。2015年には日本建築学会近畿支部と、建築史学会が、京都大学山極壽一総長(当時)あてに現棟の保存要望書を提出しています。
従来京大役員会は、こうした価値を一定認めてきました。2012年に吉田寮自治会と赤松明彦学生担当理事(当時)は、現棟の建築的価値について認め、それを最大限尊重する方法で老朽化対策を進めるという確約書を締結しています。そこで確認された価値とは、①日照や風通しなど生活空間として優良であること、②建築史から見て価値があること、③1世紀にわたり自治空間として動態保存されてきたこと、です。
また2019年2月に発出された川添信介学生担当理事(当時)の文書「吉田寮の今後のあり方について」でも、「現棟の建築物としての歴史的経緯に配慮する」という一文が添えられました。
現在大学役員会が現棟の老朽化対策に関する一切の対応を拒むのは、こうした自らの見解にすら明らかに矛盾しています。言葉とは裏腹に「このまま老朽化が進めば、寮生を追い出したり現棟を取り壊すいい口実になる」というのが当局の本音であり、建築的価値のある現棟の補修存続の選択肢を、意図的に切り捨てようとしていると言わざるを得ません。
※ 現棟の建築的価値を評価する報告書や論文、要望書
・旧制第三高等学校並びに京都帝国大学時代の歴史的建造物の現況調査報告書(西澤英和ほか・2005年)
・京都府近代和風建築総合調査報告書(京都府教育委員会・2009年)
・京都大学寄宿舎吉田寮食堂建築物の調査実測によるその京都大学内で最古の建築物である実証(山根芳洋・2012年)
・京都大学吉田寮舎の中に息づく京都大学前身創設時寄宿舎についての調査実測による実証と考察(山根芳洋・2012年)
・京都大学吉田寮の保存活用に関する要望書(日本建築学会近畿支部・2015年)
・京都大学寄宿舎吉田寮の保存活用に関する要望書(建築史学会・2015年)
●2018年の台風被害に対する役員会の不作為
今回の自力補修の対象である、2018年の台風被害を見ればこの問題が明らかです。
2018年9月に関西地方を襲い甚大な被害をもたらした台風21号では、吉田寮も倒木により屋根が損傷する被害を被りました。当時大学役員会は倒木の撤去と屋根の損傷箇所をブルーシートで覆う応急処置を行いました。しかしそれ以降は、寮自治会の度重なる要求にも関わらず、抜本的な修繕作業も再度の応急処置すらも行わず、損傷を4年間にわたり放置し続けてきました。結果としてブルーシートが紫外線や強風で劣化し、今日では屋根の損傷箇所が雨ざらしになっています。寮生の生活環境を損なうことはもとより、建物の老朽化を促進させ、建築的価値を有する現棟の補修可能性を損なう不作為です。なぜ修繕や応急処置すら行わないのかという指摘に対し、残念ながら役員会は沈黙を続けています。
● 自力補修活動の必要性
本来、経済的に困窮している人でも大学に通う権利を保障する「福利厚生施設」である、吉田寮の建物の修繕に要するコストは、大学により公的に工面されるべきです。しかし、もはや当局が一切の現棟の修繕義務を放棄し、建築的価値を蔑ろにしている現状では、寮自治会など当事者による建物の維持管理がますます重要となっています。
吉田寮自治会はこれまでにも、小規模な自力補修(樹木の剪定、小規模な雨漏りの修繕、床下の腐食した部材の交換、土壁の修繕など)について、専門家の助力も得ながら、自分たちの手で行なってきました。今回屋根の損傷の修繕という、比較的規模の大きな屋根の補修作業について、屋根瓦業者に依頼して実施することを計画しています。
● 大学役員会への要求:話し合いの再開と老朽化対策
私たちは、現棟の今後についてはあくまでも大学役員会と吉田寮自治会など関係当事者が話し合って決めるべきであり、双方の協力の下に老朽化対策を行いたいと考えています。今回実施を検討している自力補修についても、あくまで大学役員会が責任を放棄している、修繕や応急処置を行うものであり、増築・改築を伴うものではありません。
私たちは、吉田寮の安全性を向上させ、さらにより良い場所にしていくため、話し合い協力するべきです。現在役員会により行われている明け渡し訴訟は、寮生を退去させることの是非が争点となり、肝心の現棟老朽化対策を遅延させ続けています。大学役員会は、本来老朽化対策のために割くべき知恵・労力・資金・時間を明け渡し訴訟に費やすことはやめ、早急な老朽化対策に向けた話し合いのテーブルへ着いてください。また老朽化対策についての合意形成に至るまで、継続的かつ適切な吉田寮の補修を、大学の責任においてきちんと行なってください。
(※1) 吉田寮自治会は2013年1月より、「京都市歴史的建築物の保存および活用に関する条例」を現棟に適用し、できる限り現在の様態を維持して補修する案を提示しています。吉田寮現棟は、建築基準法制定以前に建設された建物であるため、大幅な増改築に際して現行の建築基準法が定める規定に適合させることが求められます。この場合大規模木造建築である現棟は、例えば木造建築物の面積制限などから価値のある意匠や形態を保存して使用し続けることが困難になります。こうしたケースに対応するため「京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」があります。本条例を吉田寮現棟に適用することで、建築基準法のいくつかの制限を適用除外しつつ、吉田寮という個別のケースに適した柔軟な補修を行い、吉田寮現棟の構造・意匠を出来る限り残し、かつ耐震性・耐火性を向上させることができます。
2018年7月の川添信介学生担当理事(当時)との少人数交渉では、吉田寮自治会は本案に加えて、部分的な建て替えや増寮も含めた複数の改修案を提示して検討を求めました。川添理事は「検討する」と回答しましたが、その後4年間一切の具体的な回答は得られていません。
(※2) 2019年2月20日「吉田寮の未来のための私たちの提案」https://www.yoshidaryo.org/archives/seimei/495/
(※3) 150212確約書「項目6-2 吉田寮の補修について:大学当局は吉田寮現棟にとって老朽化対策が早急に必要であることを認め、老朽化対策のための処置が完了するまでには、食堂をはじめとする共有スペースも含め、吉田寮の補修を継続して行う。また、処置完了後も、必要に応じて補修を行う。」
2、今回予定している自力補修について
●具体的な損傷状況と修繕方法
<中寮屋根>
(損傷状況)
2018年の台風被害により、屋根瓦が欠損・破損していたり、軒先の雨樋や軒天が破損している箇所があります。また経年劣化による屋根瓦の破損や、通風用の小屋の損傷、雨水を流す谷板金の目詰まりなどが生じています。
(修繕方法)
欠損したり傷んでいる瓦の差し替え、腐朽している野地板の修繕、通風用の小屋の葺き替え、通風口や熨斗瓦(屋根の頂点(陸棟)を構成する平らに積む瓦)と、桟瓦(屋根の平面を構成する瓦)との隙間を埋める漆喰の補修、一部陸棟の解体再構築などを行います。なお現棟の屋根瓦は基本的に緊結されていませんが、今回瓦を葺き替える際は可能な範囲で銅線による緊結を行います。
<北寮屋根>
(損傷状況)
2018年の台風被害により、屋根瓦が欠損したり、屋根の構造が破損している箇所があります。2018年当時ブルーシートによる応急処置が行われましたが、その後放置され続けたため、ブルーシートが劣化し雨が吹き付ける状態となってしまっています。
(修繕方法)
本格的な修繕を行うには工務店など複数の職人の連携が必要となり、経済的負担も大きく時間を要するため、今回はさしあたって、ブルーシートによる応急処置を再度行うことにしました。劣化したブルーシートを取り除き、より耐久性・防水性の高いブルーシートで損傷箇所を覆い、これ以上雨水が侵入しないようにします。
●見積額
全ての工事を合わせて、1,118,040円の費用がかかる見積もりです。
大まかな内訳は以下の通りです。
・欠損・損傷している瓦の差し替え・葺き直し:121,000円
・通風用小屋の葺き直し・谷板金交換ほか:210,540円
・陸棟の修繕:137,500円
・軒先腐敗箇所の修繕:220,000円
・ブルーシートによる応急処置:132,000円
・作業用足場、諸経費:297,000円
3、カンパのお願い
今回予定している自力補修には上記の通り高額な費用を必要としており、吉田寮自治会の財政のみで実施していくことは困難です。そこで、もし今回大学役員会が補修を拒否し自力補修を実施せざるを得なくなった場合、広くカンパを募りたいと考えています。吉田寮自治会の主張に賛同いただける皆様、可能であれば、カンパという形で自力補修へのご支援をお願いします。具体的な呼びかけは、要求書の回答期限である8月 12日以降に、吉田寮公式サイトなどで発表いたします。