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京都大学 教育、学生、入試担当理事 兼 副学長 大嶋 正裕殿
京都大学 役員会御中
確約引き継ぎを求める公開要求書
2026年10月25日
吉田寮自治会
目次
1. 概要 p.1
2. 用語解説 p.1~p.2
3. 背景 p.2~p.5
4. 項目解説 p.5〜p.14
5. 注釈 p.14
1,概要
吉田寮自治会は、本日2026年10月25日時点での京都大学学生担当理事である大嶋正裕殿、そして京都大学の役員である皆様へ以下の通り要求します。2026年12月5日までに回答してください。なお、やむを得ない事情により期限までに回答できない場合は、その理由と共にいつまでに回答できるかを吉田寮自治会までお知らせください。
要求:吉田寮自治会と歴代役職者が締結してきた確約を引き継ぐこと
2,用語解説
- 吉田寮自治会
吉田寮自治会とは、吉田寮に居住する全寮生によって構成される自治組織です。
- 歴代役職者
ここでいう歴代役職者とは、主に寮自治会との団体交渉において京都大学当局の代表者として登場し、確約書に押印してきた人物群を指します。大学法人化以前は学生部長が、法人化以降は副学長と学生担当理事を兼任している者がそれにあたることが多く、現在は大嶋正裕副学長が該当するものと思われます。
- 確約
確約とは、吉田寮自治会と京都大学の間で取り決められた約束事、及びそれを文字に起こしたものに京都大学の責任者と吉田寮自治会が署名・押印して成立する文書のことを指します。確約は基本的に団体交渉の結果結ばれるものであり、「特定の議題に関して交渉の結果得られた合意事項を確認するもの」と「寮自治会と大学当局の関係のあり方や抽象的な方針などの確認事項も含む包括的なもの」の2種が存在します。今回引き継ぎを求めるのは後者のうち最新のもの(杉万元副学長と2015年2月12日に締結された確約、以下「150212確約」と記述)です。150212確約を含む全ての包括的確約の最終項には「吉田寮自治会と確認した本確約の全項目について、次期の副学長に責任をもって引き継ぐ」という文言があり、今回の要求は150212確約のその条項に則ったものです。
- 引き継ぐ
当然ながら引き継ぐとは内容を承認することを含みます。事情や環境が変わって合意の内容を変更する必要性に迫られたのであれば改めて話し合いの場を開いてそのことを述べ、相手と合意に至る努力をすべきであり、両者が合意し署名までした事項について一方的に無視することは自身の社会的信用を毀損する行為と言えるでしょう。また形式的には、今回引き継ぎを求める150212確約の最終項にある「次期の副学長に」引き継ぐという文言が達せられるには川添信介・元副学長に引き継がれることが必要不可欠でした。しかし実際には川添氏にこの確約が引き継がれることはなく、川添氏の副学長就任以降確約の引き継ぎが断絶しています。そこで吉田寮自治会は、大嶋現副学長への引き継ぎを以て150212確約における最終項の理念が遡及的に達せられ、自治会と京都大学当局の間の関係の回復が図り得るものと考え、今回の声明にて大嶋氏への確約引き継ぎを求めています。
3,背景
「2.用語解説」の「確約」の項にて確認した通り、包括的確約はその最終項に次期担当者への引き継ぎを明記しています。実際2014年就任の杉万元副学長の代までは新しい副学長の就任とともに引き継ぎのための団体交渉が行われ、先代の副学長と交わされた確約について全ての内容を確認した上で新たな包括的確約が結ばれてきました。しかし、杉万氏に代わり2015年に就任した川添元副学長は団体交渉への出席を拒絶し、それどころか過去に締結された確約書は「有形無形の圧力の下」「半ば強制されて」成立したもので「本学の正式な機関決定を経て署名されたものではな」いため無効である、と主張しました。1
川添元理事の流布した団交・確約体制に関する言説は、2015年まで行われてきた交渉の実態とは乖離した、印象操作と言わざるを得ません。以下に改めて説明します。大嶋理事をはじめ、新執行部においては、川添元理事の言説をそのまま踏襲するのではなく、歴史を直視し認識を改めることを切に求めます。
① 確約が「有形無形の圧力の下」「半ば強制されて」成立したとの主張について
川添元理事は、以下のように述べています。
この「団交」は、衆をたのんだ有形無形の圧力の下、時には翌朝まで12時間以上に及ぶこともあって、「話し合い」とはかけ離れた異常なものと言っても過言ではない。
確かに団体交渉は時に長時間をかけて行われることがありました。しかしそれらは大抵の場合、大学当局側が突如として学生など当事者の不利益となる決定を一方的に行ったり、話し合いの一方的な打ち切りを宣言するなど、極めて短期間で重大事項を決定しなければいけないという緊急的な状況下でした2。このようなケースは本来稀であり、例えば杉万理事との間で150212確約書の引継ぎのためにに行われた団体交渉(2014年12月~2015年2月)は、1回の所要時間は平均2時間半程度で、計6回行われました。交渉は司会担当者が議論を整理し、双方の希望に応じて休憩をはさみながら行われました3。
また、話し合いを公開の場で行うのは、双方の間に存在する大きな権力差を僅かなりとも緩和し、また吉田寮に関係・関心をもつ多様な当事者4を話し合いの場から排除しないためです。2018年に寮自治会は、川添理事の条件を全面的に受け入れ「少人数交渉」を行いました。この場では寮生以外の当事者の参加はおろか、建築の専門家など特定のオブザーバーの参加や、傍聴も含め一切認められませんでした。川添理事は「少人数交渉」においていきなり「この場は意見聴取であり合意形成はしない」と、場のあり方を覆すことを述べたり、寮生の発言を遮って怒鳴りつけそれを批判されても開き直るという、大学理事と学生との間の権力差を無視したハラスメント行為を行いました。そして「耐震性の問題がない新棟からなぜ退去しなければいけないのか」という質問に対して十分な応答をしないまま、次回の話し合いを約束しないまま一方的に終了を宣言して退席しました。
果たしてこのような「話し合い」が、物事を決めたり意見の異なる相手への対話としてあるべき姿だと思われるでしょうか。
確かにトップダウン的な決定に比べ、意見や立場の異なる者同士が対話を重ねて落しどころを探ることには、時間も労力もかかります。ですが、だからと言って、当事者間で対話する道を軽々に放棄するべきではないということは、双方の共通認識であり、現在においても大学という機関が体現するべき事柄であり続けていると考えます。
② 「確約は機関決定を経ておらず、副学長の個人的なサインに過ぎない」という主張について
歴代の学生担当理事・副学長は、学生寄宿舎に関する重要事項の当局側の決裁権者という立場(京都大学本部事務決裁規程3条)から確約書にサインをしてきました。もし川添理事の歴史認識が正しいとすれば、京大は過去数十年間にわたり「理事や総長が、権限もないのに私的に大学の重大事を無断で約束し、そのことが内部的に非難されない」という体制をとってきたことになります。これはあまりに無理がある主張だと言わざるを得ません。2025年の吉田寮現棟・寮食堂明け渡し請求訴訟第一審判決は確約の法的有効性を認めており、司法機関ですら当局の言い分に無理があると判断したことを重く受け止めるべきでしょう。
実際、当時大学当局側の担当職として確約締結に携わった学生生活委員からも、相応のコストを割いて公的に確約書の内容を吟味してきたことが証言されています5。吉田寮新棟の建設と食堂の補修もまた、吉田寮自治会と大学当局との度重なる協議の中で合意され、確約書が結ばれ、実現に至りました。後代の執行部がこうした現場の役職者・担当者の言葉や実績に向き合わず、それを正式な決定プロセスではなかったと断じてしまうことは、寮生たちとの合意を模索してきた歴代役職者の努力をも蔑ろにするものであり、あまりに歴史を軽んじています。
また、現在の大学執行部にとって内容に異議があるとしても、確約とは吉田寮自治会と京都大学当局の二者が代表者を通じて結んだ合意であり、当局側の担当者が交替したことを以て直ちに反故にするのは不当です。現在の京大当局が確約の内容を修正したいのであれば、改めて公開の話し合いの場を設けるべきでしょう。
私たちも、150212確約が締結されてから11年半が経過し、寮自治会・大学当局の双方を取り巻く環境が変化している現在、双方にとって納得できる内容をもって合意を結ぶ必要があると考えます。従って、現状の両者のスタートラインとなる150212確約の各条項についてその意味するところを相互に確認し、認識の食い違いのあるところは擦り合わせ、その上で新たな確約の内容について合意を目指すための話し合いの場を求めます。そしてそれまでの間、これ以上確約に反する行動を重ねないよう強く要求します。
4,項目解説
この項目では、前項以前の各所で触れてきた150212確約の内容―とりわけ現在にも適用され得る重要な項目―について確認します。確約の全文については吉田寮公式ホームぺージに掲載されている6のでそちらを参照してください。
- 項目1「大学当局は吉田寮の運営について一方的な決定を行わず、吉田寮自治会と話し合い、合意の上決定する。また、吉田寮自治会が団体交渉を希望した場合は、それに応じる。」
[解説]
150212確約の第一項に設定されているこの項目は⑴合意による寮運営と⑵団体交渉への応答から成ります。
これまで吉田寮自治会は、寮生など当事者間の「話し合いの原則」を軸としながら、差別や抑圧を可能な限り減らし学生の学ぶ権利を確保することを目指して京都大学の学生寮として責任ある自治を担ってきました。性のあり方や国籍による入寮資格の制限を撤廃し、福利厚生の門戸を吉田寮自治会が主体的に広げてきたことは、その一例です。
他方、大学執行部が一方的に寮のあり方を決め、その決定を居住者である寮生に押し付けることは、学生の生活実態にそぐわない、福利厚生施設として不適切な運営を招きかねません。実際、京都大学内の他寮において近年寮費の大幅な値上げが行われ、また当局が管理する留学生寮では在寮年数等が厳しく制限されている現状があります。
多様な背景・属性を有する当事者が、互いに納得できる結果を得るための「話し合い」というプロセスを経由して初めて、吉田寮は福利厚生施設として十全にその役目を果たすことができます。大学執行部の定める画一的な方針に従った管理・運営では捉え切れないさまざまな課題を克服できる可能性がある点にこそ、学生自治寮の長所は存在します。逆に言えば吉田寮の管理・運営に際して、寮自治会など当事者の意思が尊重され、当事者との対話と合意形成の上で決定されるのでなければ、福利厚生施設として十分な機能を保持できているとは言えません。つまり、「合意による寮運営」は福利厚生施設としての吉田寮を成立させるための必須条件と言えるのです。
前項「3.背景」にて詳述した通り、吉田寮自治会と京都大学当局は2015年に至るまで数十年にわたって団体交渉という話し合いの場をもつことによってさまざまな課題を乗り越えてきました。これは団体交渉という形式が寮運営における問題解決に有効であることの証左であり、その有効性は現在でも変わらないと考えられます。当事者の全員が主体的に参加することのできる形での話し合いでなければ、上述した合意による寮運営は有名無実化されてしまいます。従って「団体交渉への応答」もまた、現在も変わらず重要な合意事項であり続けていると言えます。
2019年、吉田寮現棟及び食堂は京都大学を原告とし、合計45名の寮生・元寮生を被告とする明渡請求訴訟の対象となりました。学生寮に対する公式窓口である教育推進・学生支援部厚生課(現学務部学生支援課)に話し合いをしたいと申し出ても「係争中の案件なので話し合いはできない」という回答しか得られず、また学生寮管理を管轄する第三小委員会に繋いでほしいと問い合わせたところ「第三小委員会の議場で吉田寮について扱うことはない」という回答が第三小委員会による議論を経ることなく厚生課窓口から返って来ました。2025年に訴訟は「和解」によって終結しましたが、訴訟の論点として扱われなかったものをはじめ、多くの問題が未解決のまま残されています。
だからこそ我々は依然として話し合いが必要であると考えています。いわゆる「吉田寮問題」は単に訴訟によって決着することはなく、最終的には当事者である寮自治会と大学当局とが互いに納得し合意を結ぶのでなければ真に解決されたとは言えません。しかし京大当局は和解以降、吉田寮自治会との話し合いを拒否したまま吉田寮に関する決定を一方的に行っています。私たちは京都大学当局が吉田寮の運営に関する話し合いを再開し、再び合意に基づいた寮運営に戻ってくることを切に願っています。
- 項目3「大学当局は、現行の寄宿舎規程が現状に即しておらず、寄宿舎規程を変更してこなかった責任が当局にあることを認める。また、入退寮者の決定については、吉田寮現棟・吉田寮新棟ともに現行の方式を維持する。」
[解説]
寄宿舎規程とは、京都大学により1956年2月10日に制定された、「京都大学学生寄宿舎規程」を示しています。これは制定以降、幾度かの改定を経てはいるものの、第3条の「学生寄宿舎は、学部学生に限り入舎させる」(吉田寮は福利厚生施設として、学部学生に限らず、あらゆる学生の学ぶ権利を保障する場として機能する必要がある)や第13条の「在舎期間は、入学年から起算して、正規の卒業年までとする」(必ずしも全ての学生が正規の卒業年で修学できるとは限らず、そこには様々な事情がありうる。それらを無視して既定の年限を機械的に設けることは、そのような学生の学ぶ権利・機会を損ないうる)など、実状に即さない規程が多く見られます。これからは、学生の声に耳を傾け、それらを逐次実状に即して改訂していく必要があるのではないでしょうか。
また、入退寮選考権を寮自治会が保持していることは、吉田寮が福利厚生施設としての機能を全うする上で、極めて重要です。入寮を希望する学生には、様々な事情があります。それらから寮の定員に見合った人数を選考するには、それぞれの事情を勘案し、寮を必要とする切実性の高いものから選ばなければならないでしょう。この選考のプロセスを大学当局が行う場合、現に授業料免除や奨学金制度がそうなっているように、選考に当てるリソースの限界から、どうしても親の経済状況など画一的基準によって選抜されることになる懸念が大きくあります。しかし実態として、入寮の切実性を親の経済状況だけで計ることができないことは明らかです(家庭内不和、進学への反対による経済援助の拒否など)。
吉田寮では、寮生からなる入寮選考委員会が入寮希望者の面接をし、現に寮で生活を営んでいるという立場から、画一的基準では取りこぼされるような様々な事情まで含めて議論し、入寮者を選考しています。寮が学ぶ権利を保障するセーフティーネットとして機能するためには、このような寮生による綿密で柔軟な選考が必要だと考えます。また退寮者に関しても、大学がその選考を行う場合、画一的に処理される懸念が残ります。例えば病気・疾患や家庭環境の変化でやむをえず休学や留年をしたために退寮を強いられ、生活が立ち行かなくなって大学での学業が継続できなくなるという例が、現行の寄宿舎規程から想定できるでしょう。退寮者の選考もまた、現に生活を共にする寮生によって柔軟かつ綿密に行わなければならないと言えます。
入退寮選考権を寮自治会が有していることはまた、それによって寮自治会が大学の政策決定に対して、一定程度独立した立場を持つという意義があります。現在の京大における政策決定のプロセスに、学生は関与することができません。故に、大学当局が入退寮選考権を有していると、当事者を無視した一方的な政策転換により、寮を切実に必要とする学生の学ぶ権利を侵害しかねません。2017年の「吉田寮生の安全確保についての基本方針」によって一方的に入寮募集が停止された後も、入寮を希望する学生が後を絶たなかったことはその証左と言えるでしょう。寮自治会が入退寮選考権を持つことは、福利厚生施設としての機能を寮が果たすことを担保し、また定員の増加など学生側のニーズを当事者の立場から提案することを可能とするのです。
- 項目4 情報公開・当事者との話し合いについて
「大学当局は、過去に学生など当事者に情報を出さず話し合いを行わなかったことにより、学生など当事者が不利益を被ったことを認め、今後積極的に情報公開を行い当事者との話し合いの場を設けることで再発防止に努める。」
4-1 公開する情報について
「学生などに関わることについては、可能な限り早く学生など当事者に周知する。
大学組織やキャンパスの改組・再編については、学生など当事者の要求に沿って副学長が役員会・教育研究評議会・経営評議会・部局長会議・各種委員会をはじめとする各種会議の内容も含めて知りうる情報について決定以前に情報を公開する。新寮・新規寮の建設及び現在の寮に関しては、何らかの案が出た時点で公開する。」
4-2 情報公開の手段について
「副学長が参加し、情報公開を行う連絡会を公開の場で開く。また、この連絡会に限らず、さまざまな場・手段を用いて情報の公開に努める。情報公開において、意図的に情報を隠すようなことはしない。」
4-3 当事者との話し合いについて
「学生などに関わることについては学生など当事者と話し合うことなく一方的な決定を行わない。学生など当事者からの要求があれば、団体交渉などを行う。なお、話し合い・団体交渉は公開の場で行い、一方的な条件をつけない。
学生などに関わることについては、学生課は学生など当事者の要求に対し責任ある交渉窓口として誠実な対応を行う。また、学生課は学生など当事者が学内の各部局と交渉に当たる際、学生らの求めに応じて適切な仲介を行う。副学長は厚生補導担当の責任者としてこれらのことが行われるよう努力する。」
[解説]
京都大学執行部は従来、副学長情報公開連絡会を通じて学内構成員である学生への情報共有と意見交換を行なってきました。2016年に開かれたのを最後に、副学長情報公開連絡会は廃止され、代替として学生意見箱が導入されましたが、学生意見箱は公開の場での逐次的なやり取りではなく、対話の場として十分に機能しているとは言えません。例えば、回答する側が回答対象の意見を恣意的に選別することも可能であり、また回答に対して再度意見を述べて議論を深めるのにも不向きであるといった問題があります。2026年7月28日に開始された「吉田寮現棟建替えと敷地活用アンケート」等のアンケート形態での意見収集についても、同様のことが言えます。
また、2026年4月14日に発表された「吉田寮現棟建替え・現棟建替えにより創出される敷地の活用方針について」や「国際卓越研究大学」制度への応募とそれにともなう大幅な組織の改組・再編についても、本来であれば決定以前に可能な限り早く寮生や学生、教職員などその影響を第一に被る当事者に情報を公開したうえで対話が行われるべきでしたが、実際には当事者へ十分な情報共有がなされておらず、懸念や反発の声があがっています。
こうしたコミュニケーション不足を解消するためにも、確約にのっとり、副学長情報公開連絡会やそれに相当するものを再開するとともに、それに限らず、さまざまな場・手段を用いて情報の公開に努めるよう求めます。
【吉田寮現棟の老朽化対策について言及している項目】
- 項目2「大学当局は、吉田寮の新寮・新規寮の建設と吉田寮現棟の老朽化対策について、吉田寮自治会と誠意をもって合意を形成する努力を行う。」
- 項目6 吉田寮の新寮、新規寮について
6-2 吉田寮の補修について
「大学当局は吉田寮現棟にとって老朽化対策が早急に必要であることを認め、老朽化対策のための処置が完了するまでには、食堂をはじめとする共有スペースも含め、吉田寮の補修を継続して行う。また、処置完了後も、必要に応じて補修を行う。」
- 項目10「吉田寮現棟の耐震強度を十分なものとし、寮生の生命・財産を速やかに守るために、吉田寮現棟を補修することが有効な手段であることを認める。」
- 項目11「大学当局は本確約末尾に示す「吉田寮現棟(管理棟・居住棟)の建築的意義」を認め,その意義をできるかぎり損なわない補修の実現に向けて,今後も協議を続けていく。」
[解説]
吉田寮現棟の老朽化対策に関して、2012年9月18日に吉田寮自治会と赤松明彦・元副学長は補修の意義を認める確約7(項目10・11ほか)を結び、以後、「現棟の建築的意義をできる限り損なわない補修の実現」に向けて協議が積み重ねられてきました。しかし、2015年に就任した川添理事は団体交渉への出席を拒否し、現棟老朽化対策は棚上げにされました。吉田寮自治会は再三、寮自治会の補修案への応答を求めましたが、大学当局は「検討中です」という実質的なゼロ回答に終始しました。
そのような中、2017年12月19日に、川添元理事は突如として「吉田寮生の安全確保のための基本方針」を発表し、「現棟の老朽化問題は未解決のまま残され」ていると述べ、耐震不足を理由に寮生の退去を迫りました。これは、上記の経緯を踏まえない歴史の歪曲であると言わざるを得ません8。
加えて、吉田寮自治会は大学当局に対し2018年7月の「少人数交渉」において、段階的な改修が可能―つまり全面的な寮生の退去を必要としない―、かつ現在の構造や規模を維持できる改修案として、次の3案を提示しました。
- 条例適用案:「京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」を吉田寮に適用することで、現在の構造や意匠を最大限保全して補修する案
- RC(鉄筋コンクリート)接合案:建物を部分的に鉄筋コンクリートに置き換えて、建築基準法を適用して補修する案
- 居住棟漸次建て替え案:管理棟のみ補修し、より安全性を求められる居住棟は、一棟ずつ現在と同じ規模で建て替える案
この「少人数交渉」においては、これらの案について「大学当局でも検討し寮自治会にフィードバックを行う」ことが確認されています。
しかしながらその後、現棟改修案について大学当局からの応答は一切なく、これらの案に対してどのような検討を行ったのか、そもそも何らかの検討を行ったのかも含め、今なお闇の中です。そして2026年4月に大学当局は、一方的に現棟の「建て替え方針」を発表しました。ここでは、現棟の補修・改修という選択肢は一顧だにされていません。
以上のように、大学当局は2015年までの現棟補修に向けた積み重ねの一切をなかったことにし、当事者との建設的な意見交換も行うことなく、建て替えを強行しようとしています。それによって、喫緊の課題であった現棟老朽化対策も遅延し続けています。もとをただせばこれは、150212確約が引き継がれなかったがゆえと言わざるを得ません。150212確約が連綿と寮自治会・大学当局の合同で解釈され、かつ現在的な確約へと更新していく作業がなされ、その過程で現棟老朽化対策の逼迫性(項目2)と補修の意義(項目10・11)についてきちんと確認をした上で協議が進められていれば、このような事態は起こらなかったと言えます。2019年2月に川添理事が発出した「吉田寮の今後のあり方について」9では、吉田寮現棟の供用に関して「安全確保に加えて収容定員の増加や設備の充実等を図りうる措置」を講ずる、その際「現棟の建築物としての歴史的経緯に配慮することとする」と述べられていますが、これは寮自治会側が提示した改修案でも達成可能なものでした。。それにもかかわらず一致点を見出せなかったのは、大学当局が寮自治会との話し合いに応じてこなかったからではないでしょうか。
現在、吉田寮生は吉田寮現棟・食堂明渡請求訴訟の「和解」に基づいて現棟から一時退去している状況ですが、現棟の保全補修に関しては、項目6や項目11が示す通り当局が責任を持って行うべきであることは明らかです。
これまでの京大当局と吉田寮自治会との合意では、現棟の保全補修や、より抜本的な老朽化対策を当局が行っていくことが明記されていました。しかし、こうした補修が十全に履行されたとは言い難く、特に、一時退去後の現在、寮生による日常的なメンテナンスや点検が行えていないため、吉田寮自治会としては、現棟が朽廃していく不安が強くあります。現棟の「建築物としての歴史的経緯に配慮する」ことは現在の当局の方針10にすら明記されており、「どのように配慮するのか」を含め現棟の耐震工事内容が決まっていない11中で、点検や保全を行わずいたずらにその老朽化を放置しておくことは、その方針とも矛盾するものです。
そもそも2026年4月14日に発表された「吉田寮現棟建替え・現棟建替えにより創出される敷地の活用方針について」が項目11に反していることは明白です。吉田寮自治会は当局に対し、一刻も早く本方針を撤回することを要求します。そのうえで、吉田寮現棟の建築的・歴史的意義をできるかぎり損なわない耐震工事のための話し合いを行うこと、及びこれまで寮生が行ってきたような日々の点検・補修を責任を持って継続することを要求します。
- 項目12「吉田寮新棟の運営は吉田寮自治会が行う。また、大学当局は継続中の協議事項について一方的な決定を行わず、吉田寮自治会と話し合い、合意の上決定する。また、吉田寮自治会が吉田寮新棟に関して団体交渉を希望した場合は、それに応じる。」
[解説]
現存する吉田寮新棟は、吉田寮自治会と京都大学当局との間の話し合いの成果のうち近年における最大のものと言えるでしょう。新棟建設は主に2010年に就任した赤松明彦副学長との間で協議が進展し、2012年9月18日の確約書において建設が合意されました。そして、後任の杉万俊夫副学長との間で新棟の自治運営について改めて合意し確約書を締結。以後吉田寮自治会が新棟の運営も行っています。
川添元理事は2017年12月19日の「基本方針」で、安全性の問題がないはずの新棟からも寮生が退去することを迫りました。更に2019年には「適切な管理」を名目として、自治会による入寮選考を認めないなど従来の自治運営を否定する一方的な条件を受け入れた者にのみ、新棟での居住を認める、と発表しました。私たちは、吉田寮の自治運営が「様々な人が集い、交流し、知識を共有し新たな文化を創造するパブリックスペース」の創出に一定の役割を果たしてきたことを具体的に説明した上で、当局が提示した条件の全てを直ちに否定するのではなく、その一つ一つについての説明と擦り合わせを行うことを求めました12。しかし大学当局は一切の対話や説明を拒否したまま、新棟への新規入寮を認めず、現在に至っています。
吉田寮現棟と同様、新棟もまた、京都大学の福利厚生の一翼を担う重要な空間です。現在のように大学当局が新棟への入寮・居住を認めない不安定な状況は、京都大学全体にとって望ましい状態とは言えません。
大学当局は、問題の発端である、新棟からの立ち退きを迫った「基本方針」の誤りを直視し、新棟の入寮募集停止を解除するべきです。そして新棟の運営のあり方について改めて、当事者である吉田寮自治会との協議の場につくことを求めます。
- 項目15 寮生の経済負担について
「大学当局は、一般に学生寮は学生の福利厚生を守るために必要であることを認め、理想としてそこに居住する住人の経済負担はなるべく低廉であるべきだと認める。
吉田寮新棟の経済負担については協議中であり一方的な決定はしない。また吉田寮新棟の水光熱費の負担区分については、吉田寮自治会との合意に至るまで吉田寮現棟の現在の負担区分を適用する。」
[解説]
国公立大学の学費は高騰化の一途を辿り、2004年の独立行政法人化以降に53万5,800円に達しています。学生の経済事情に目を向ければ、近年の物価高騰によって学費以外にも多くの支出が割かれていますが、その内の多くを占めるのは住居費です。本来学寮には、低廉な寮費によって学生の経済的負担を緩和し、高等教育を受ける権利を生活の面において保障するセーフティーネットの役割が求められています。しかし、現実には学費の高騰にもかかわらず、全国的に新築される学寮の寮費も、民間の賃貸住宅と変わらないような値段に値上げされています。このような経済負担の高騰には、「学問とは大学が提供するサービスであり、その費用は受益者である学生個人が全額負担すべきだ」という「受益者負担」の思想が強く表れていると言えます。
しかし、本来、高等教育はすべての人に平等な権利として与えられるべきものであり、大学および学寮は、労働力の再生産や社会の維持・発展の為に不可欠な公共的機能を有しています。その利益は社会全体が享受しうるものであり、その受益者は決して一個人のみに留まりません。大学は高等教育の機関として、社会的活動としての勉学や教育に携わる者の生活を支えることが求められています。
こうした、寮費が低廉であることの意義は、代々の副学長も公的に認めてきました。また吉田寮新棟の寮費は、新棟の建設までに合意に至らず、当時の副学長の交渉において「一方的な決定はしない」ということが約束されています。
本来学費含め高等教育にかかる費用は低負担、無償化されるべきであると私たちは考えます。実際、国連の「社会権規約」には、「高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。」とあります。日本政府はこの条項に関しての留保を2012年に撤回しており13、本来は高等教育無償化に向かうべき立場にあります。また、日本は、高等教育への公財政支出額(1人当たり)が、OECD加盟国平均のおよそ半分に留まっており14、「世界標準」という観点からしても、本来的には学費の値下げや学寮など福利厚生施設の拡充・増設などの方向へ舵を切るべきです。しかし、現行の学費高騰と学寮への廃寮化・寮費値上げは、この流れに全く逆行しており、「受益者負担」の強化は国際的義務にも反しているといえます。このままでは、「教育の機会均等」という民主主義の基盤が切り崩され、高等教育が格差と選別の装置へと成り下がる懸念も排除できません。
私たちは本来大学が率先して担うべきである万人への高等教育の機会の保障を、福利厚生の機能面で少なからず吉田寮が担ってきたことを当局が認めた上で、新棟への経済負担について一方的な決定を行わないことを改めて求めます。
- 項目17「吉田寮自治会と確認した本確約の全項目について、次期の副学長に責任をもって引き継ぐ。」
[解説]
「2.用語解説」の「引き継ぐ」の項も参照のこと。
この確約の引き継ぎは、文字上で確約文書を次期の副学長に渡すだけではなく、その内容の解釈を双方で擦り合わせ、その時の現状に即した新たな確約を結ぶことを含めて行われなければなりません。本項目17で書かれている「責任をもって」とは、この実践的な面をも含めた引き継ぎがなされなけばならないということを含意します。すなわち、形式的に文書を次期の副学長に渡すだけではなく、その解釈が現在どうなりうるかを検討する作業を、当期の副学長は次期の副学長に要請しなければなりません。
5,注釈
当要求書にて度々言及されている川添氏の発出した「『吉田寮生の安全確保についての基本方針』の実施状況について」に対する詳細な反論については、以下の声明を参照のこと。
「『吉田寮生の安全確保についての基本方針』の実施状況について」への抗議声明(2018年9月21日)
- 川添信介理事「「吉田寮生の安全確保についての基本方針」の実施状況について」(2018年8月28日)(https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2018-08-28) ↩︎
- 例えば2012年4月19日、当時継続協議中であった吉田寮食堂の存廃および吉田寮新棟の建設について、大学当局(赤松明彦学生担当理事)は突如として「食堂の取り壊しと新棟の建設」を決定したと一方的に通知しました。4月23日に大学当局が開いた「説明会」では、当局が決定したという計画の予算措置上の不備や食堂を含む吉田寮現棟の補修の実現可能性が寮自治会側から指摘され、最終的に計画は撤回されるに至りました。大学当局側も休憩と相談を重ね、必然的に話し合いは長時間を要しました。
(https://www.kyoto-up.org/archives/1535) ↩︎ - 当時杉万理事側から、一回一回を短時間としその分回数を増やすことが提案され、寮自治会側もそれに応諾するといったように、柔軟な対応を行ってきました。 ↩︎
- ここで「当事者」という言葉を用いているのは、吉田寮に関係する主体は居住者である寮生だけではなく、寮籍の有無にかかわらずさまざまな関わり方をする「寮外生」もまた吉田寮という環境を形成する一員であるという事実を強く意識するためです。京都大学の学生寄宿舎である吉田寮に居住できるのは寮生のみですが、吉田寮が外界と切り離されて存在するわけではない以上、寮生だけを利害関係者として見なすことはさまざまな軋轢を生みます。 ↩︎
- 2019年7月4日「吉田寮現棟に係る明渡請求訴訟 第一回口頭弁論および報告集会、7・4京大集会」において、木村大治・元学生生活委員が報告をしています。https://4ae03973-bc49-408e-b616-e0ee2bbfa33e.filesusr.com/ugd/022c94_2f4f6d89f6c543e698313118cad28944.pdf ↩︎
- 吉田寮自治会「確約集」
https://www.yoshidaryo.org/kakuyaku/ ↩︎ - この確約では、主に①現棟現寮の処遇は補修の意義を踏まえた上で継続協議していくこと、②新棟を木造と鉄筋コンクリートの混構造で建設すること、③寮食堂を補修することの3点が合意されました。
(https://www.yoshidaryo.org/archives/kakuyaku/588/) ↩︎ - 川添理事はその後も老朽化対策に関する歴史経緯を歪曲する言辞を弄しています。例えば「『吉田寮生の安全確保についての基本方針』の実施状況について」の冒頭には以下のようにあります。
「本学は平成 21 年に「吉田南最南部地区整備基本方針(案)」に基づき、現棟の老朽化問題の解決を図った。同案では、収容定員増加のための新棟新築と現棟の建て替えを前提としていたが、現棟について自治会は補修を強く主張し譲らなかった。その結果、現棟の老朽化対策については根本的な解決には至らず、本学は、止む無く平成24年9月に、現在の新棟の新築と旧食堂棟の改修のみを行うこととした。」
ここでは、2012年(平成24年)に、新棟の建設・食堂の補修と並行して、現棟の補修の意義を認めその処遇について協議していく旨が確約されていたこと、そしてその後実際に具体的な補修案を巡り両者の協議が行われてきたという事実を完全に無視しています。 ↩︎ - 京都大学「吉田寮の今後のあり方について」(2019年2月12日)
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2019-02-12-0 ↩︎ - 京都大学「吉田寮現棟建替え・現棟建替えにより創出される敷地の活用方針について」(2026年4月14日)
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2026-04-14-1 ↩︎ - 京都大学新聞「京大 吉田寮現棟建替方針を説明 建替と敷地転用の妥当性を強調」(2026年8月1日)
https://www.kyoto-up.org/archives/13419 ↩︎ - 2019年2月20日「吉田寮の未来のための私たちの提案」
(https://www.yoshidaryo.org/archives/seimei/495/)
2019年3月16日「要求書」
(https://www.yoshidaryo.org/archives/seimei/507/) ↩︎ - 経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)第13条2(b)及び(c)の規定に係る留保の撤回(国連への通告)について, 外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/tuukoku_120911.html ↩︎ - Education at a Glance 2025, OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development)
https://www.oecd.org/en/publications/education-at-a-glance-2025_1c0d9c79-en.html ↩︎