2016年秋季入寮募集停止「要請」に対する抗議声明

2016年7月26日

吉田寮自治会に対する2016年秋季入寮募集停止「要請」に対する抗議声明

2016年7月26日

吉田寮自治会

2016年7月20日に行われた吉田寮自治会と京都大学当局との交渉(予備折衝)で、川添学生担当副学長の名義で吉田寮の2016年秋季の入寮募集を停止することが「要請」された。吉田寮自治会はこのことに強く抗議し撤回を求め、以下のとおり見解を示す。なおこの見解に基づき、吉田寮自治会は2016年秋季も通常通り入寮募集を行うことを予定している。

1. 入寮募集停止は吉田寮老朽化の根本的な問題解決とはなりえない。寮生らの補修要求に真摯に応えず、募集停止のみを通知することは不誠実である。

吉田寮自治会は、2002年7月の交渉を始めとして長きに渡り現棟補修を行うことを主張してきた。近年では、2012年及び2015年に現棟補修が早急な老朽化対策のために有効な手段であることが確約書の形で確認された。2014年以降、吉田寮自治会は具体的補修方法として「京都市条例案」(後述)を提案している。

しかし自治会の提案から二年半が経過した現在、京都大学当局はこの補修案に対して何らの見解も示さず、また具体的な案を出すでもなく、「検討する」とのみ繰り返すばかりである。2016年7月20日の交渉でも大学当局からは「検討中だと思うが、今言えることは何もない」という趣旨の返答であった。吉田寮の老朽化・災害対策を行って人命を守るという意志が全く感じられない。

その一方で、京都大学当局は吉田寮自治会に対し2015年7月から現在まで2度に渡り、老朽化を理由とした入寮募集停止「要請」を一方的に通知し、3度目の通知を予告している。これは吉田寮自治会からの老朽化・災害対策の要望を無視したうえで、災害時の責任を「吉田寮現棟に住むことを選択した寮生自身」に押し付ける、非常に不誠実で不当な行為であると評価せざるを得ない。また、これまでの吉田寮自治会と京都大学当局との交渉の経緯から考えるに、いま吉田寮自治会が入寮募集停止を受け入れることで現棟の老朽化・対災害化対策についての議論が特段円滑になるとは考え難く、むしろ寮生の生命・財産の安全を守る行動をこれ以上行う必要がないといった態度を大学当局が取るのではないかと懸念している。

また2016年7月20日の交渉で、京都大学当局は寮自治会に対して「寮生全員の部屋割り情報を提出してほしい」とも要求し、「コンプライアンスの観点から、災害がおこった際に京都大学当局として被害の状況をいち早く把握する必要が有る」という説明を行った。しかし、具体的な老朽化・災害対策に向けた取り組みがないままに行われるこの主張は、「京都大学当局は寮生の生命・財産の安全性を確保・向上する意志を持たず、小手先の責任回避を優先させている」と評せざるを得ず、非常に不誠実である。

2. 入寮募集停止は寮を切実に必要とする人間を困窮させる上、歴史的に自治寮潰しの常套手段として用いられた手法であり、吉田寮自治会として到底受け入れることはできない。募集停止は老朽化対策に何ら資さず、寧ろ議論の混乱・遅延につながるため、即刻撤回すべきであり今後も出すべきでない。

吉田寮は京都大学の福利厚生施設であり、経済的に困窮した人への安定した住環境を保証している。寮自治会による入寮選考は、年収額面上に表れない様々な経済事情を抱えた入寮希望者を安易に切り捨てず、福利厚生を広く提供するために非常に重要なものである。入寮募集を停止することは厳しい経済事情を抱えた学生の入進学・在学を阻み、現在・未来の寮生や寮を使用しうる全ての学生など当事者にとって、人生そのものにも深い影響を与える致命的な問題である。

入寮募集停止は寮生の数を減らして量質ともに寮自治を弱体化させる廃寮化の布石として、過去の学生寮潰しで用いられてきたという経緯がある。例えば、1980年代吉田寮が一度廃寮寸前まで追いやられた時や1990~2000年頃の東京大学駒場寮廃寮化攻撃の一環として、当局による入寮募集停止が出されている。こうした歴史的経緯や先述したように現棟老朽化への取り組みが何らないことを踏まえると、「募集停止に廃寮化の意図はない」という大学当局の主張は説得力を欠いていると言わざるを得ない。

こうした理由から、吉田寮自治会は入寮募集停止の要請を受け入れることはできない。吉田寮現棟の早急な老朽化対策が求められる今、入寮募集停止は実質的な解決策とならないばかりか、そのための議論を徒に遅延させるばかりである。京都大学当局に真に寮生の生命・財産を守る責任を果たす意志があるのならば、議論の遅延につながる「入寮募集停止要請」は直ちに撤回すべきであり、今後も出すべきでない。

 「京都市条例案」について

吉田寮は良質な住環境を保有し、低廉な寮費や学内寮である利便性から、福利厚生施設としても非常に質が高い。吉田寮自治会はこの吉田寮を現在及び未来の吉田寮を必要とする人々に開かれた場とし、福利厚生施設・自治自主管理空間として引き継いでゆく責任がある。また現棟には、建築史的な価値や長きに渡り当事者による自治空間として使用されてきた価値がある。こうした理由から現在寮自治会は、建物の構造を現状から可能な限り変更せずに補修や構造補強により吉田寮を存続させることを求め、具体的手法として「京都市条例案」を提案している。

建築基準法制定以前に建設された吉田寮を現行の画一的な建築基準法に無理やり適合させた場合、建物の構造を大きく変更せざるを得ない可能性がある。「京都市条例案」とは、「京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」を吉田寮現棟に適用することで、建築基準法のいくつかの制限を適用除外しつつ、吉田寮という個別のケースに適した柔軟な補修を行い、吉田寮現棟の構造・意匠を可能な限り残したままに耐震性を向上させるという案である。

一般的に木造建築は継続的なメンテナンスによって非常に長期間使い続けることができる。良質な木材を使い、湿気のたまらない構造的な工夫がされた吉田寮は、築100年が経過した木造建築ではあるが、比較的しっかりとした構造を保っており、補修存続は十分可能であることが再三指摘されている。大学当局が過去の入寮募集停止「要請」で老朽化の根拠に挙げた建築研究協会による吉田寮耐震調査でも、吉田寮の補修は現実的であることが述べられている。

公開質問状

総長 山極寿一 殿

学生担当理事・副学長 川添信介 殿

上記声明にもとづき、以下のとおり山極総長及び川添副学長に質問する。8月4日(木)までの回答を求める。

1、吉田寮自治会と京都大学当局は吉田寮現棟の老朽化対策について真摯な議論を積み重ね、現棟補修の意義を確認してきた。このことを踏まえた上で、吉田寮現棟の老朽化対策、特に吉田寮自治会が現在主張している現棟補修案(「京都市条例案」)に関して、どのように考えているのか。

2、2015年、建築学会近畿支部及び建築史学会が、現棟の歴史的価値や建築的価値について述べ吉田寮の保存を求める要望書を山極総長宛に出している。しかし現在に至るまで大学当局はこれに対して何らの応答もしていない。ニ学会の要望書に対する京都大学としての公式見解を明らかにせよ。

2016年7月26日

吉田寮自治会